こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天使の分け前 

otello2013-02-28

天使の分け前 THE ANGELS’ SHARE

監督 ケン・ローチ
出演 ポール・ブラニガン/ジョン・ヘンショウ/ロジャー・アラム/ガリー・メイトランド/ジャスミン・リギンス/ウィリアム・ルアン
ナンバー 47
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

荒んだ環境で育ち暴力に明け暮れる青年に世間は冷たい。まともな生活を送りたいのはわかっている、だが一度底辺に落ちると這い上がれない。そんな閉塞感の中でもがく彼はひとりの鷹揚な大人と出会う。息子を持つことで親の気持ちを理解し働くことでプライドを取り戻す、人間としていかに生きるべきかを教えてくれる存在。映画は社会から疎外された主人公が人生をやり直すために大勝負にでる姿をコミカルに描く。スコッチウイスキーのテイスティングにもワイン同様気取った比喩や言い回しがあり、香りと舌触りを言葉にして楽しむシーンは、文化の奥行きを感じさせる。

喧嘩の末労働奉仕命令を受けたロビーは指導員・ハリーの元、ペンキ塗りや草刈りに明け暮れる。ある日、恋人の出産に駆け付けた病院で追い返されたロビーはハリーに慰めらる。また、自分が傷つけた相手に会って二度と他人を傷つけないと誓う。

その後、ハリーにウイスキー蒸留所見学に連れて行ってもらったロビーはテイスティングの才能に目覚め、労働奉仕仲間と共にヴィンテージ酒を盗む計画を練り、スカートをはいた珍道中が始まる。中でもいつも酩酊状態のようなアルバートはロビーのセンスからワンテンポずれていて、間抜けなのかと思えば彼の突飛なアイデアで危機をすり抜けたりもする。そもそもアルバートの罪状は泥酔して線路に落ちたというもの、役に立たないが憎めない彼のキャラクターが絶妙の味わいを醸し出していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

更生の第一歩が泥棒とは感心しないが、カネに物を言わせる米国人から“天使の分け前”分だけ失敬するくらいは、ヴィンテージ酒の価値が分かる者の正当な権利とも思える。そして、この旅を通じてロビーは自制心と思いやる心、ビジネス感覚を磨いていく。何より不況の中で希望を亡くしている若者たちも、道筋とチャンスを与えてやれば立ち直れる、その可能性を信じているケン・ローチ監督の優しいまなざしに心地よい酩酊感を覚えた。それにしてもなぜ彼らは酒をペットボトルで運ばなかったのだろうか。。。

オススメ度 ★★★

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