こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バービー

日常生活でも社会でも、すべての重要な役割は女たちが担っている。男たちは脇役に過ぎず、存在が許されているだけの生き物として扱われている。物語は、おもちゃ人形の国から現実世界にやってきた男女2体の “人形” が人生の意味を探す姿を描く。少女の夢を可視化した空想の国は危機に瀕している。守るためには現実を修正しなければならない。ところがおもちゃ会社の経営陣はみな男、女たちは補助的な地位しか与えられていない。比喩的で象徴的で暗示的な映像はカラフルで、その色彩こそが常にポジティブであることを求められる21世紀の窮屈さを訴えていた。人生において何者かになれというプレッシャーは才能があり夢を抱ける人間にとっては有効だが、遺伝的環境的に恵まれない者には居心地が非常に悪いのだ。

バービーランドで完璧な日々を送っているはずだったバービーは自身の劣化を痛感、原因が人間界にあると知らされて、ケンと共にLAにある製造元会社を目指す。そこでは男たちが権限を握っていた。

男でも活躍できると知ったケンはバービーの添え物扱いを脱するべく闘争本能と権力欲を満開にして走り出す。バービーが自我崩壊に陥っている間に目指すべき目標を見つけたケンは一足先にバービーランドの戻り、自らの王国に変えてしまう。いまや支配階級だった女たちは単純な肉体労働や男への奉仕に喜びを見出している。一応、ケンに洗脳されているという設定だが、自分の頭で考えずに指示されたことだけをやっていればよしとされるライフスタイルに共感する女たちが一定数いるのだろう。すべからく自分らしく生きるべしというリベラル的呪縛は、かえってそういう女たちを追い詰めているのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

おもちゃ会社の重役たちは秩序を、バービーたちは権力を取り戻すためにケンを排斥しようとする。このあたり、行き過ぎたフェミニズムは世論の支持を得られないという意趣返しでもある。ジェンダー論に深く踏み込むだけでなく、そこからこぼれた人々の気持ちも掬い上げる稀有な作品だった。

監督     グレタ・ガーウィグ
出演     マーゴット・ロビー/ライアン・ゴズリング/アメリカ・フェレーラ/ケイト・マッキノン/マイケル・セラ/アリアナ・グリーンブラット/ウィル・フェレル/ヘレン・ミレン/ジョン・シナ
ナンバー     150
オススメ度     ★★★★


↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/