こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゴーストマスター

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恋に憧れる女子高生が放課後の教室でイケメン男子からの告白を待つ、はずだった。だが彼女の期待は無残にも押しつぶされる。突然の衝撃と血飛沫、あまりのグロさに目を見張るが、その後にふつふつと沸き上がるほのかな滑稽さ。まさに映画史上最凶の “壁ドン” 誕生の瞬間だ。きちんと調べたわけではないけれど……。物語は、山奥のロケ地に閉じ込められた恋愛映画の撮影隊が、悪霊に乗り移られた俳優と闘う姿を描く。全身全霊で脚本を書き上げた。監督になるチャンスをうかがうためパシリに甘んじてきた。そんな主人公が直面する現実は厳しい。それでも監督の罵声に耐え出演者を宥めすかしスタッフのご機嫌を取るのはいい作品にしたいから。彼ら映画の魅力に取りつかれた人々の純粋な思いはむしろ美しい。

設定に納得いかない勇也を説得する助監督の黒沢は、自身のオリジナル脚本「ゴーストマスター」に血が滴り、魂が宿るのを目撃する。ゴーストマスターは勇也に憑依しロケ隊を襲い始める。

演技にこだわりを持つ勇也は爛れた顔になってもカメラを向けると役者魂が戻り、「OKですか」と訊きながら高校生役を演じ続ける。生き残った黒沢と助演の真菜ら数人のメンバーは協力して勇也を倒そうとするが、超人的パワーに歯が立たない。次々と勇也に文字通り血祭りにあげられていく様はB級映画の王道。さらにさまざまな旧作からメタファーを引用し、その過程で少しずつ愛をまぶしていく展開は、限られた予算でちょっとでも心に残るショットを撮ろうとする映画人の苦心に満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その間、浮かび上がってくるのが、こんなしょぼい現場でも映画への夢をあきらめていない人たちの情熱。追い詰められても “カメラを止めるな!” とばかりに撮影はやめない。そして一息ついたときに口からこぼれる映画愛。「カメラの前に立つ人生か、スクリーンの前に座る人生か」と己に問う真菜と、鬼気迫る表情で映画を完成させようとする黒沢が対峙するクライマックスは、映画に捧げた彼らの人生が凝縮されていた。

監督  ヤング・ポール
出演  三浦貴大/成海璃子/板垣瑞生/永尾まりや/原嶋元/寺中寿之/篠原信一/川瀬陽太/柴本幸/森下能幸/手塚とおる/麿赤兒
ナンバー  223
オススメ度  ★★★*


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http://ghostmaster.jp/

ひとよ

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母の勇気は、殴られ蹴られ痣だらけ傷だらけの地獄から救ってくれた。だが本当の地獄はそのあとにやってくる。心無い視線を向けられた。夢をあきらめた。ずっと秘密にして息をひそめるようにして暮らしてきた。物語は、子供たちを守るためにDV夫を殺した女が服役・放浪を経て戻ってきたことから起きる、残された家族たちの葛藤を描く。懐かしい再会になるはずだった。涙の抱擁で迎えられるはずだった。しかし、母を待っていたのは大人になった子供たちの遠慮がちな態度。人殺しの子供というレッテルは耐えがたい苦痛だった。町の人々の偏見にさらされるくらいなら父に暴力をふるわれていた方がマシだった。助けてくれた母に対し、複雑で歪んだ感情しか持てない3兄弟妹の割り切れない思いがリアルに再現されていた。

夫を轢き殺したこはるは、大樹・雄二・園子の3人息子娘たちに、“これからは自由に生きろ” と言い残して自首する。15年後、帰ってきたこはるに、3人はどう対応していいかわからない。

特に雄二は露骨にこはるへの憎しみを表出させる。小説家になりたかったのにいまだにフリーライターに甘んじている自分の弱さをこはるに転嫁し、大樹や園子にたしなめられる。母の不在に慣れ切っていた大樹や園子もそれぞれに問題を抱えていて、母子4人で食卓を囲んでも会話は弾まない。一方でこはるはまだ記憶の中のイメージを引きずっていて、子供たちの食事の支度をする。母が子を思う気持ちは時間と共に濃密になり、子が母を思う気持ちは成長と共に拡散する。その温度差に共感した。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

事件後、実家のタクシー会社は親戚が引き継いでいたが、こはるの帰還によって、今度はその会社が嫌がらせを受ける。地元住民もう忘れているのに雄二は過去を蒸し返して母に復讐しようとする。ところが、むしろ雄二の仕打ちが、こはるだけでなく大樹や園子の抑えてきた心のしこりを解放するのだ。厄介だが縁を切るわけにもいかない、でもやっぱり最後は協力し合う肉親の絆、それを愛というのだろう。

監督  白石和彌
出演  佐藤健/鈴木亮平/松岡茉優/音尾琢真/佐々木蔵之介/田中裕子
ナンバー  231
オススメ度  ★★★


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ヘルボーイ

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地上に這い出した巨大な怪物たちは逃げまどう人々を襲い、食らう。つかんだ両手と両足を左右に引っ張って胴体を引きちぎり、逆さ吊りに両足を持って股裂きにし、頭を踏みつぶす。まるで残虐なハンティング楽しむかのようなショットの連続はスプラッター・ホラー以上の衝撃だ。物語は、人間に育てられた “悪魔の子” が、復讐のために蘇った魔女と闘う姿を描く。真っ赤な体にいかつい顔、大きな角は切り落としてはいるが手入れは欠かせない。性格はひねくれているが正義感は強い。肉体は何度斬られても刺されても決して傷つかない。カッコよさや爽やかさとは対極にある不細工なヒーローは、“本当は暴力に訴えたくないが仕方なく相手をぶちのめしている” 感にあふれ、その瞳は哀しみに満ちていた。

米国超常現象調査防衛局捜査官・ヘルボーイが巨人を倒すために英国出張、そこでアーサー王に倒された魔女・ニムエの復活を知る。ヘルボーイ霊媒師のアリス、戦士のベンとチームを組み対処する。

英国の対魔界組織・オシリスのメンバーが中世風のコスチュームと槍、剣、そして馬に乗って巨人退治に向かう。銃器をぶっ放すヘルボーイと違い、いかにも魔術や呪術が現役で通用するこの作品の世界観を象徴していた。また、猪突猛進の猪頭の怪人やスパイダーウォークで暴れまわる片目の婆など、個性的なサブキャラもインパクトが強い。破壊する側も防衛する側も、ニムエとアリス以外はほとんどが極端な異形で、世間の偏見に耐えて生きてきたことをうかがわせる。それ故に素直な心が育たず、他人に対して懐疑的攻撃的になっているあたりが新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、見せ場となるはずのバトルシーンは単調で、その他のアクションにもスピード感も切れ味も欠けるのが残念。もがれた手足が飛んできたり、ぶちのめされた死体が崩壊したりと、飛び散る血や肉片の量は多いのだが、もっと臨場感があってめくるめくような体験をさせてほしかった。ロブスターがキャプテンアメリカそっくりなのが笑えたが。

監督  ニール・マーシャル
出演  デビッド・ハーバー/ミラ・ジョボビッチ/イアン・マクシェーン/サッシャ・レイン/ダニエル・デイ・キム/トーマス・ヘイデン・チャーチ/td>
ナンバー  234
オススメ度  ★★


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ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち

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競争相手に1000分の1秒差をつけるだけで市場の儲けを総取り、濡れ手に粟の大金が転がり込んでくる。ところが、そのアイデアを結実させるためには乗り越えるべき難問が山積されている。物語は、1600キロに及ぶ光ケーブルを直線で埋設しようとした男たちの奮闘を描く。あくまで通信速度にこだわり、わずかなカーブも許さない。民家から地権を買い、硬い岩盤を掘削し、地上げに応じない信仰集団の村は大深度を通す。一方で出資者を説得し工事業者に指示を出し新たなアルゴリズムを開発させる。恐ろしいほどの早口でまくしたて、口八丁手八丁で不可能を可能と信じさせる主人公をジェシー・アイゼンバーグが熱演、さらに彼ら以上に強欲で冷酷で自信家の女上司をサルマ・ハエックが怪演、マネーゲームに毒されたウォールストリートの住人をシニカルに再現する。

株式トレーダーのヴィンセントはプログラマーののアントンと共に最速取引を実現する計画を立て、密かに実行に移す。だが、元上司のエヴァに知られ、執拗な妨害工作を受ける。

資金調達は順調だった。工事技術者と業者もすんなり見つかった。土地の買収もおおむねうまくいっている。しかし、巨大山脈が立ちふさがり通常の掘削機では歯が立たない。エイミッシュの村人はカネに興味を示さずケーブル敷設は一切認めない。机上のプランでは見えなかった現場のトラブルを次々とヴィンセントが解決していく姿は、理想を具象化するためにチャレンジする者は他人の倍働く覚悟と行動力が必要と訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アントンの居場所を突き止めたエヴァは彼を脅迫した上にFBIに刑事告訴、ヴィンセントも胃がんの進行で体調がすぐれず、もはや敗色濃厚。ひと握りの勝者の陰で彼らのような敗者が大勢いる。それでもほどほどの成功では満足せずトップを目指す。健全とは思わないが、米国の自由競争・資本主義の精神はまだまだ健在だとこの作品は教えてくれる。ただエヴァ流鉄塔のほうが合理的と素人でも気づきそうだが、当時は技術的障壁が高かったのだろうか。

監督  キム・グエン
出演  ジェシー・アイゼンバーグ/アレキサンダー・スカルスガルド/サルマ・ハエック
ナンバー  233
オススメ度  ★★★


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http://hummingbirdproject-movie.jp/

ホテル・ムンバイ

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泣いても叫んでもヒーローは助けに来てくれない。テロリストたちは容赦なく引き金を引き躊躇なく手榴弾を投げる。無防備な人々は隠れるか走るか、逃げ遅れたら殺される。映画は、武装集団に占拠された高級ホテル内で起きた大量殺戮を再現する。客でごった返すロビーでいきなり自動小銃を乱射する。部屋を一つずつノックし、宿泊客にも銃弾を浴びせる。資本主義と異教徒に対する憎しみを徹底的に叩き込まれた若者たちは、そうすることが神の意思に適っていると信じていて、まったく迷いがない。犯罪者ではない、自らの行為が正義と疑わない狂信者。ホテルから脱出できない客と従業員は、息をひそめて救出を待つが地元警察では歯が立たない。それでも “お客様は神様” と、客の安全を最優先させる従業員の姿は、絶望的な状況では勇気こそが希望であると教えてくれる。

イスラム武装組織が大規模ホテルに乱入、数十人が射殺される。レストランのホール係・アルジュンは怯えている客を部外者に知られていない部屋に避難させる。

出入り口に見張りを立て、残った客と従業員を見つけては確実にとどめを刺していくテロリストたち。下手に動けば撃たれるだけ、物陰に潜んでいても見つかる確率は高い。足音を忍ばせ呼吸を止め、テロリストに見つからないよう移動するシーンは、エイリアンや怪物に襲われるホラー映画を見ているような緊迫した演出だ。従業員のみが知っている、迷路のようなホテルの通用口や裏階段を逃げ回る過程は現場の不安と恐怖がリアルかつスリリングに描かれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてテロリストはホテルの各所に放火を始め、またVIPを一室にまとめて公開処刑しようとする。武器を持たないアルジュンは彼らと闘うわけではない、だが知恵と行動力でできるだけ多くの客を救おうとする。結果的にはテロリストの大勝利、しかしアルジュンたちが命がけで守ったホテルの名誉、インド人・シク教徒としての誇りは決して敗北したわけではない。安っぽい感動に走らなかったところに好感が持てた。

監督  アンソニー・マラス
出演  デブ・パテル/アーミー・ハマー/ナザニン・ボニアディ/ティルダ・コブハム=ハーベイ/アヌパム・カー/ジェイソン・アイザックス
ナンバー  232
オススメ度  ★★★*


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https://gaga.ne.jp/hotelmumbai/

男はつらいよ50 お帰り 寅さん

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困ったとき、行き詰まったとき、ちょっと嬉しい出来事があったときetc. 日常の些細な場面でふとよみがえるのはあの人の記憶。迷ったら道を示してくれた。立ち止まったら背中を押してくれた。短気で貧乏だったけれど人情に篤くいつも家族や友人がまわりにいた。物語は、脱サラして小説家になった男が、初恋の人と再会し遠い過去を振り返りながら今抱える問題に対処する姿を描く。子供の頃はあれほどにぎやかだった下町の実家も、人の出入りが少なくなっている。大勢の大人に囲まれて育ったのに、妻に先立たれて以降は娘と2人暮らし。孤独なわけではないが、時々人恋しくなることもある。そういうとき慰めてくれるのが、あの人から受けた大いなる愛情。誰かに大切にされた思い出は、いつまでも心の中で生き続けるとこの作品は訴える。

妻の法事で柴又に戻った満男は、両親やご近所といった馴染みの顔ぶれに、しばし安らぎを覚える。その後、自著のサイン会に若いころ付き合っていた泉が現れ、ふたりは現在の悩みを共有する。

いまや泉は国連機関で働くバリキャリウーマン、欧州を拠点に難民保護のために世界中を飛び回っている。だが、輝いて見える彼女の人生にも、両親の離婚・父の介護などと仕事の葛藤がある。家族が助け合うのは当たり前の環境で大きくなった満男は泉にどんな言葉をかけたらいいのかわからない。寅さんならきっとこう言うだろう。そっと肩を抱きしめるだろう。そう思いながらもなかなか行動に移せない満男。不器用なところは似ているのに、人を引き付ける魅力に満ちた寅さんと自分はやっぱり違う。それでも満男なりのやり方で泉を包み込む展開が、やさしさに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

満男の実家を訪れた泉が食事の後そのまま泊るなど、現代では考えられない人と人のつながりがまだこの映画には残っている。20世紀のまま時が止まった世界観は懐かしい故郷に帰ったような感慨を与えてくれた。寅さんだけでなくすべての観客に「お帰り」と声をかける、そんなあたたかい映画だった。

監督  山田洋次
出演  渥美清/倍賞千恵子/吉岡秀隆/後藤久美子/前田吟/池脇千鶴/夏木マリ/浅丘ルリ子/桜田ひより
ナンバー  221
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/movie50/

HELLO WORLD

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時空のひずみから飛び出してきた男は10年後の自分。今がどんな状況なのかをきちんと理解していて、これから何が起きるかもわかっている。そんな彼が指南してくれたのは、堅物クラスメイトとの恋。物語は、内向的な高校生と彼の日常に突然闖入してきた未来の己のアバターが、力を合わせて愛する人を危機から救おうとする姿を描く。高度にIT化された近未来社会、人々はテクノロジーに依存して暮らしている。それでも、過去に干渉してはならない。歪みが生じると自動的に修正処置がとられる。現実とバーチャルの区別がまったくつかない世界、意思とは、感情とは、そして生きるとはどういうことなのかを問うテーマは、人間の存在意義そのものを突き詰めているようだ。もしかして我々の意識自体が何者かに操られているのでは、という気分になった。

冴えない高校生活を送る直実は、別次元から来た分身・カタガキの指導の下、同じ図書委員の瑠璃に接近、古本市で売る古書を集めるうちに親しくなる。だがカタガキ には秘めた意図があった。

瑠璃とのきっかけはうまくつかめた。不自然に思われない程度に接触できた。協力して作業するうちに信頼関係も築けた。告白も大成功。デジタルに頼らず、意志が強く、読書家で几帳面な瑠璃のキャラは萌え要素がいっぱいだ。しかし、カタガキは瑠璃がほどなく雷に打たれると知っていて、それを阻止するためにやってきたと直実に打ち明ける。カタガキにとっての現在を変えるために、過去である直実たちの運命をいじる。ありがちな展開ながら、鳥居の赤、町家の古さといった京都の町が細密に再現された映像は目新しかった。登場人物には京都弁をしゃべってほしかったが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

実は直実がいるのはデジタルの世界で、直実もまた記録されたデータに過ぎない。カタガキはそのスパコンを操作する研究者という「ループ」や「マトリックス」に似た設定。やがて暴走したプログラムが現実世界を侵し始めるのだが、入れ子の数を増やすだけでなくもうひとひねり欲しかった。

監督  伊藤智彦
出演  北村匠海/松坂桃李/浜辺美波/福原遥/寿美菜子/ 釘宮理恵/子安武人
ナンバー  230
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://hello-world-movie.com/