こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カウントダウン

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運命を変えるのは利用規約違反、禍々しいアラート音の後で黒い影に追いかけられ、幻覚に悩まされる。そして待ち受けているのは悲惨な最期。物語は、スマホアプリで余命を知ってしまったヒロインが、その呪縛を解こうと奮闘する姿を描く。身近なところからも次々と出る犠牲者、ネットでも話題になっている。信じたくはない、都市伝説に決まっている。だが、スマホ画面に表示された残り時間は確実に減っていく。逃れる術はあるのか、弱点はあるのか。スマホアプリである以上、ソースコードを書き換えれば何とかなるという発想がおもしろかった。悪魔もプログラム言語を勉強したのだろうか? 一方で、テクノロジーの発達とともに呪い方が洗練されてきているのに、悪魔本体はアナログなままなのが、“B級” 感いっぱいで楽しい。

若者に流行のアプリ・カウントダウンをスマホにインストールした看護師のクインは、2日後に死ぬと予告される。患者のひとりが予定時刻通りに事故死したのを機に、彼女はスマホを買い替える。

ところが、アプリは勝手にダウンロード・更新され、カウントダウンは続く。同じく死が近いマットと協力してオカルトに強い神父を訪ね対処法を教えてもらうが、そのやり方が伝統的な悪魔祓いと変わらない。このあたりになると、悪魔は少しずつ、おぞましく歪んだ顔や皮膚が爛れた腕、枯れ枝のような細長い指といった目に見える形でクインの前に現れる。それは時に死者の声や外見を借りたりするが、基本的には子供でも分かるような造形。じっとりとまとわりつくようなカメラワークが突然ショッキングに反転するオーソドックスな恐怖演出は残酷になりすぎず、余裕をもって見ていられた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

妹のジョージアまで巻き込んでしまったクインは、悪魔が予定変更を嫌うと気づき、セクハラ医師への復讐も兼ねて一発大逆転の秘策を打つ。悪魔も物理的な攻撃を仕掛けてくるがクインはひるまない。悪魔にもいろいろな種類があるようで、死を恐れず向かっていけば活路は見いだせるのだ。。。

監督  ジャスティン・デク
出演  エリザベス・ライル/ジョーダン・キャロウェイ/タリタ・ベイトマン/ティシーナ・アーノルド/P・J・パーン/ピーター・ファ シネリ
ナンバー  152
オススメ度  ★★*


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https://countdown-movie.jp/

ミッドウェイ

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無線を傍受して暗号を解読する。勝敗の鍵はその任務に就く兵員の質と量の差、攻めているつもりが相手の懐に呼び込まれ大いなる痛手を負う。物語は太平洋戦争の始まりから帰趨を分けた海戦までを描く。諜報と航空機がこの戦争を左右すると見抜いていた米海軍と、空母の重要性に気づきながらも戦艦を主力とする日本海軍。まだレーダーもGPSもない時代、大海原を行く空母から発進した軍用機は乗務員の視力を頼りに目標物を探し出さなければならない。その際、優秀な情報部員の進言が米軍パイロットたちの命を救う。一方、性格に問題のある指揮官を頂く日本海軍の内情は厳しい。それでも、「大和魂」や「神風」といった非合理的な言葉を口にする将校は一人もおらず、連合艦隊司令長官への理解も深い。このあたり、ローランド・エメリッヒ監督の日本に対する敬意が感じられた。

緒戦で大成果を上げた日本海軍だったが、東京空襲を機に米軍の士気も上がる。そして日本軍の攻撃目標がミッドウエイと知った米軍は迎え撃つ準備に取り掛かる。

燃え盛る戦艦の間隙を縫って機銃掃射を仕掛けてくるゼロ戦。離艦に失敗し海に墜落、そのまま空母に押しつぶされる偵察機。無数の対空砲火をかいくぐりながら急降下し空母の甲板に爆弾を見舞う雷撃機。また、胴体着艦をして海に落ちそうになる戦闘機や滑ってくる魚雷を抱き止めようとする海兵などもいる。スペクタクル満載の戦闘から小さなエピソードまでディテール豊かに表現された映像は、「戦争」という大枠ではなく生身の人間同士の「戦場」を非常にリアルに再現し、その緊迫感を体感させてくれる。陸軍と違って敵の顔が見える遭遇戦は少ない。だからこそ、CGの出来がいいほどバトルゲームのような感覚に陥ってしまう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

史実に忠実な結果、全体的に総花的な展開になっている。それは空母と航空機による戦術が主流になった太平洋戦争はわかりやすいヒーローを生みにくくなったということだろう。飛龍艦長の山口少将が艦と運命を共にするシーンにいちばんのヒロイズム覚えた。

監督  ローランド・エメリッヒ
出演  エド・スクレイン/ルーク・クラインタンク/ウディ・ハレルソン/デニス・クエイド/パトリック・ウィルソン/豊川悦司/浅野忠信/國村隼/アーロン・エッカート/ルーク・エヴァンス
ナンバー  153
オススメ度  ★★★*


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http://midway-movie.jp/

僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

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ステージに上がると笑顔が消え、刺激的な音楽とともに激しい振り付けのダンスが始まる。物語性のある歌と踊りは演劇空間にいるような緊張感さえ醸し出す。カメラは異色のアイドルグループのデビューから活動休止まで密着、少女だった彼女たちが成長しプロの自覚を持ち、人気急上昇と共に消費され、やがて力尽きていく過程を記録する。年齢もバックグラウンドもバラバラの少女たちが全員団結して芸能活動をこなし、一方で無邪気にはしゃぐ姿は明るい女子高生のノリのよう。しかし、圧倒的な表現力を持つセンターの登場でいつしかグループの楽曲が彼女中心の構成になっていく。徐々にできるセンターとの溝。いがみ合うわけではないがもはや対等ではない。そんな微妙な人間関係の変化は、アイドルもまた普通の女の子だと思わせてくれる。

2016年、デビューシングル発売を前に数人ずつに分かれてCDショップを巡る欅坂46のメンバーたち。新譜の予約ボードで自分たちのグループ名を発見すると大喜びする。

憤っているようでもある。叫んでいるようでもある。決して媚びたりはしない。彼女たちの歌は、既成の価値観や世の中の常識に逆らおうとするものばかり。均一性が求められる日本社会で「出る杭」として生まれた者の生きづらさを再現する。だがそれはグループ内における平手友梨奈の立ち位置そのもの。欅坂46のパフォーマンスをライブ会場で体験するファンは、そういったグループの内情を知りつつ歌の内容に共感する。これは「設定」ではなく現実である。彼女たちの「リアル」の部分でさえ商品にしてしまう大人の思惑は残酷だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

政治の季節は20世紀に終わり自由と民主主義がほぼ保障されている日本では、欅坂46が歌の中で怒りをぶつけるような敵はいない。ところが、返還時の約束が反故にされ北京政府の圧力が強まる香港では、活動家の周庭が逮捕・拘束時に「不協和音」の歌詞が頭の中を駆け巡ったと言っていた。欅坂46の歌が海を越えて外国人の心に響く、世界が狭くなったと改めて感じた。

監督  高橋栄樹
出演  欅坂46
ナンバー  151
オススメ度  ★★★


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https://2020-keyakizaka.jp/

mid90s ミッドナインティーズ

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ルールに縛られず生きているところがまぶしかった。スピードに乗って技を競う瞬間が楽しかった。物語は、反抗期に差し掛かった少年が、家族以外に初めて居場所を見つけ、様々な体験を通じて成長していく姿を描く。不良たちが、意味のない下ネタや与太話で笑い、タバコをふかし酒を煽る仕種がイケていた。勧められ試すうちに、自分もクールになった気がした。母親は理解してくれない。兄は暴力で抑え込もうとする。でも彼らはどんな時も陽気に迎え入れてくれる。主人公はスケートボーダーが屯するショップに入り浸るうちに、母子家庭では身につかない人間関係の機微と距離感を学んでいく。家に帰る前にタバコの臭いを必死で消そうとする少年の、まだ母を恐れ敬っている気持ちが残っているあたりが健気でかわいかった。

口うるさい母・粗暴な兄と暮らすスティーヴィーは不満だらけの日常を送っていた。ある日、スケボーショップに集まる年上の若者たちのテクニックを見せられ、憧れを抱くようになる。

最初に仲良くなったルーベンにスケボー界隈のイロハを教えてもらったスティーヴィーは、ジャンプ技で無鉄砲な勇気を見せたことからリーダー格のレイやお調子者のファックシットに認められ、新しいボードをプレゼントされたりパーティでノリ任せて酒を飲みセックスしたりする。またたく間にボーダー的ライフに染まったスティーヴィー、ところが彼にポジションを奪われたルーベンは面白くない。仲の良かった2人が険悪になっていく。このあたり、手あかのついた青春と友情の一コマに終わらせない奥行きを持たせていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

レイはプロボーダー、愚鈍なフォースグレードは映像作家を目指している。ファックシットとルーベンは親との折り合いが悪い。彼らもそれぞれに事情を抱えている。レイは純粋なスケボー愛を持つが、他の者にとってスケボーは何かへの抵抗。自由に振舞っているようでしがらみから逃げている。そんな彼らの真実を知ったスティーヴィーの、少し成長した笑顔がたくましかった。

監督  ジョナ・ヒル
出演  サニー・スリッチ/キャサリン・ウォーターストン/ルーカス・ヘッジズ/ナケル・スミス/オーラン・プレナット/ジオ・ガリシア
ナンバー  150
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/

行き止まりの世界に生まれて

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スロープを猛スピードで滑り降り、障害物はジャンプしてよける。クルマの間を縫うように車道を走り、気の置けない仲間と技の難易度を競う。時に転倒しケガするけれどアドレナリンが痛みを忘れさせてくれる。カメラは米国北東部の小さな町に生まれた3人の少年たちの日常を追う。家庭環境に恵まれず高校にも通わなかった。10代の頃はそれがクールだと思っていた。ところが、周囲が大人になっていくにつれ、このままではいけないと思い始める。だが、元々こらえ性のない性格、将来を見据えて我慢や努力をするのではなく目先の享楽に走ってしまう。夢なんか抱いても空しい、未来への希望もない。そんな彼らの生き方は、経済のグローバル化で産業が空洞化した工業地帯・ラストベルトの閉塞感を象徴していた。

ザック、キア、ビンの3人は学校に行かず、スケボーを通じて深い友情を育んでいく。18歳になり、高卒認定試験に挑むが芳しい結果は出ない。ザックとキアは肉体労働の職を得る。

恋人・ニナの妊娠・出産を機に、ザックはよき父親になろうと職人の見習いになる。給料は安く、ニナも仕事に出ないと暮らしていけない。子守りを押し付けあうふたりの間には夫婦喧嘩が絶えなくなり、愛情は薄れていく。ニナは子連れで叔母夫婦の世話になり、ザックは他州に引っ越していく。それでもたまに子供に会いに来るザック。ニナとの関係は壊れても血の繋がった息子はやっぱりかわいい。だれかを愛する気持ちが残っているうちは、きっとザックもやり直しがきくだろうと思わせてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キアはレストランの洗い場からホール係に昇進すると、少しずつ働いてカネを稼ぐ喜びに目覚める。ビンは映像作家を目指し、自分の母に夫から受けたDVを語らせる。もう若くない年齢になってしまった、スケボーに乗って毎日を冒険のように過ごした青春の日々は二度と戻らない。感傷が漏れ出すラストは、時間はだれにでも平等に流れることを思い出させてくれる。ただ、ありふれた凡人の人生はやっぱり退屈だった。

監督  ビン・リュー
出演  キアー・ジョンソン/ザック・マリガン/ビン・リュー/ニナ・ボーグレン/ケント・アバナシー/モンユエ・ボーレン
ナンバー  149
オススメ度  ★★


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http://bitters.co.jp/ikidomari/

宇宙でいちばんあかるい屋根

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憧れているのはお隣のお兄さん、学校でちょっとトラブルがあったけれど不登校になるほどではない。両親ともにやさしいのに少し壁ができ始めている。自信が持てず考えすぎる癖が心配事を大きくする。物語は、多感な女子中学生が不思議な老婆と出会ったのを機に、未来に一筋の光明を見出していく姿を描く。周りの大人たちはみな親切にしてくれるのに、老婆だけはずけずけと踏み込んでくる。ヒロインはいつしか本音で接してくる老婆に心を開き、今自分に何が必要なのかに気づいていく。満天の星、水槽いっぱいのクラゲ、町を埋め尽くす屋根……。空間をぜいたくに使った構図は世界の広さと個人の小ささを象徴し、人間の悩みなど取るに足らないと訴える。母親を演じた坂井真紀が、顔のあらゆる筋肉を複雑に制御して娘への思いを語るシーンが強烈な印象を残す。

道教室の帰りにビルの屋上でくつろいでいたつばめは星ばあに絡まれるが、食料を餌に仲良くなる。星ばあは、前に進む勇気が出ないつばめの背中を押し、彼女の頭を悩ます問題を解決していく。

水墨画に興味を持ったつばめは書道教室の先生に勧められた個展を見に行ったあと、己が置かれている状況に納得がいかず気持ちを持て余す。もう理性では理解できる年齢、でもやっぱり感情をうまくコントロールできない。そんな思春期真っただ中の少女の繊細な胸中がリアルに再現されていた。そして、星ばあもまたやり残したことを抱え葛藤しているあたり、愛こそが人生における最大の苦悩であると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後つばめは星ばあの願いを叶えるために夏休みを人探しに費やす。目星をつけた家を一軒ずつ確認していく過程は、家族の絆を探す旅でもあり、新しい恋の始まりでもある。元カレの愚痴を聞き流すつばめの横顔は大人びている。やはり他人の思いを受け止める経験は人を成長させるのだ。ただ、ベテラン俳優たちの癖のある演技につばめに扮した清原果耶が埋もれ気味。彼女のフレッシュな魅力をもっと前面にプッシュしてほしかった。

監督  藤井道人
出演  清原果耶/桃井かおり/伊藤健太郎/吉岡秀隆/坂井真紀/水野美紀/山中崇/醍醐虎汰朗
ナンバー  147
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://uchu-ichi.jp/

パブリック 図書館の奇跡 

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開館前から震えながら列を作り、オープンと同時にトイレに駆け込んで、鏡の前で身だしなみを整える。もう寒くはない。夜まで暖かいところにいられる。長く凍える夜を過ごした彼らはやっと人心地つく。物語は、日中、公立図書館に屯するホームレスが、夜になっても退館せずそのままフロアを占拠して立てこもり、人間らしい扱いを求めて抗議する姿を描く。一応、他の利用者に迷惑を掛けまいと気を使っている。一方で、時々心身に問題を抱える者が騒ぎを起こしたりもする。図書館員は、彼らを差別しないまでも距離を置いている。にもかかわらず、図らずも反乱に巻き込まれたとき、彼らの側に立つ。書物に人生を救われた、今度は自分がだれかを救う番。決意を固める主人公の眼差しが印象的だった。

厳寒の夜、シェルターからあぶれたホームレスたちが大挙してスチュワートの勤務する図書館に押し掛ける。スチュワートは彼らとともにバリケードを築き、警察はビルを交渉人に立て説得にあたる

逮捕され、職を失い、前科も増える。ところが、弱者を踏み台にして選挙戦を有利に戦おうとする検事の言葉に奮いたち、手柄を焦るマスコミには古典の引用で反撃する。時に物知りのホームレスの指示に従い要求を突きつけたりもする。ホームレスたちの中には祖国のために戦場に出た退役軍人もいる。失業を機に家を奪われた者もいる。だが、凶悪犯罪には手を染めず町の片隅で息をひそめて生きてきた罪なき人ばかり。彼らの人権を顧みない現代社会に対する不満が徐々にスチュワートに湧き上がり、怒りに昇華されていく過程は、格差にまみれた自由競争の問題点が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ホームレスたちは決して蔵書を粗末に扱わない。図書館の備品を壊したりもしない。それは彼らも「公共図書館は民主主義の最後の砦」と理解しているからだろう。本来きちんとした教育は受けている。マナーや道徳も身につけている。そんな善良な人々でさえホームレスになりかねない、株高に浮かれる米国の危うさが浮き彫りにされていた。

監督  エミリオ・エステベス
出演  エミリオ・エステベス/アレック・ボールドウィン/ジェナ・マローン/テイラー・シリング/クリスチャン・スレイター/ガブリエル・ユニオン/ジェフリー・ライト
ナンバー  148
オススメ度  ★★*


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