こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

宇宙でいちばんあかるい屋根

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憧れているのはお隣のお兄さん、学校でちょっとトラブルがあったけれど不登校になるほどではない。両親ともにやさしいのに少し壁ができ始めている。自信が持てず考えすぎる癖が心配事を大きくする。物語は、多感な女子中学生が不思議な老婆と出会ったのを機に、未来に一筋の光明を見出していく姿を描く。周りの大人たちはみな親切にしてくれるのに、老婆だけはずけずけと踏み込んでくる。ヒロインはいつしか本音で接してくる老婆に心を開き、今自分に何が必要なのかに気づいていく。満天の星、水槽いっぱいのクラゲ、町を埋め尽くす屋根……。空間をぜいたくに使った構図は世界の広さと個人の小ささを象徴し、人間の悩みなど取るに足らないと訴える。母親を演じた坂井真紀が、顔のあらゆる筋肉を複雑に制御して娘への思いを語るシーンが強烈な印象を残す。

道教室の帰りにビルの屋上でくつろいでいたつばめは星ばあに絡まれるが、食料を餌に仲良くなる。星ばあは、前に進む勇気が出ないつばめの背中を押し、彼女の頭を悩ます問題を解決していく。

水墨画に興味を持ったつばめは書道教室の先生に勧められた個展を見に行ったあと、己が置かれている状況に納得がいかず気持ちを持て余す。もう理性では理解できる年齢、でもやっぱり感情をうまくコントロールできない。そんな思春期真っただ中の少女の繊細な胸中がリアルに再現されていた。そして、星ばあもまたやり残したことを抱え葛藤しているあたり、愛こそが人生における最大の苦悩であると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後つばめは星ばあの願いを叶えるために夏休みを人探しに費やす。目星をつけた家を一軒ずつ確認していく過程は、家族の絆を探す旅でもあり、新しい恋の始まりでもある。元カレの愚痴を聞き流すつばめの横顔は大人びている。やはり他人の思いを受け止める経験は人を成長させるのだ。ただ、ベテラン俳優たちの癖のある演技につばめに扮した清原果耶が埋もれ気味。彼女のフレッシュな魅力をもっと前面にプッシュしてほしかった。

監督  藤井道人
出演  清原果耶/桃井かおり/伊藤健太郎/吉岡秀隆/坂井真紀/水野美紀/山中崇/醍醐虎汰朗
ナンバー  147
オススメ度  ★★*


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