こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ムーンライト・シャドウ

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やさしく包容力があり、どんな自分も受け入れてくれた。一緒に過ごした時間は大切な宝物だった。でも、彼は突然逝ってしまった。物語は、恋人に先立たれた女の再生を描く。彼には弟がいた。弟の恋人と彼は同時に死んだ。哀しみと喪失感を共有する2人は、いつしか死者との再会を願うようになる。穏やかな川と豊富な地下水脈、水が持つ不思議なパワーが奇跡を起こしてくれると信じて、思い出が過去に追いやられないように反芻する。愛する気持ちは死者に届くのか、彼らの魂はいつまで現世を彷徨うのか。もう過去に戻れない、事故をなかったことにできないのもわかっている。それでも、夜の闇が曙光にとって変わられるほんの短い間だけに起きる不思議な現象の中、きちんとさよならを言えなかった相手に対する姿は感謝の思いに満ちていた。

さつきは仲のいい恋人・等に、彼の弟・柊とその彼女みなこを紹介される。さつきは柊とみなことも意気投合、4人は料理や他愛ないおしゃべり、ゲームなどを通じて絆を深めていく。

由美子の死後、柊はまるで自身の中に彼女を取り込むかのようにセーラー服を着るようになる。さつきは等の手首に巻いた鈴の音が脳裏から離れない。2人とも自分の恋人を愛していた。というより深く慈しんでいたというべきだろう。恋人はもういないという事実を受け入れなればならないと理解はしていても、心がついてこない。“月影現象” について調べるうちに声を集める女の存在を知り、一度きりのチャンスに賭けようとする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、感情を抑え気味にしたさつきと柊は、かえって何も抱えていない空虚さを感じる。柊は料理上手な設定なのに箸の持ち方がおかしいし、もみあげを長く伸ばした太眉のオッサン顔のままでセーラー服を着るのはお笑い芸人のよう。さつきが等の手首に巻いた鈴も動くたびにカチャカチャと耳障りな音を立てる。それは決して澄んだ心地よい音色ではない。死はすぐ隣にあるが、覚えていてくれる者がいる限り人生は無駄ではないという世界観は伝わってこない。

監督     エドモンド・ヨウ
出演     小松菜奈/宮沢氷魚/佐藤緋美/中原ナナ/吉倉あおい/臼田あさ美
ナンバー     164
オススメ度     ★★


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https://moonlight-shadow-movie.com/

先生、私の隣に座っていただけませんか?

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夫の不倫に気づいていることをにおわせる妻。妻に気づかれているのを分かっていながら平穏を装う夫。言葉に仕込んだ毒が妄想を膨らませ、鎌をかけたつもりが、思わぬところでぼろを出す。物語は、漫画家夫婦に訪れた危機に迫る。喜怒哀楽を表に出さず、すべてお見通しのような目で妻は夫を見る。夫は焦りつつも妻の真意を測りかね卑屈な態度をとってしまう。いつしか夫は疑念に苛まれるが、それを口にはできない。夫婦だからこその些細な感情、言いたくても言い出せない、けれど言わなくてもわかっている。アイデアが枯渇した夫といまだ創造力に富む妻、パワーバランスが壊れた夫婦関係の中で、女のいやらしさと男の愚かさが交差する。むしろホラーに近い演出は人間の心に潜むダークな部分を浮かび上がらせ、ふたりの冷めきった関係を象徴していた。

連載を終えた佐和子はけがをした母と同居するために夫の俊夫と共に実家に帰る。佐和子が描き始めた新作のラフには、俊夫と担当編集者・千佳のキス現場が含まれていた。

佐和子は自動車教習所に通い始め、さらに教官の新谷との恋をテーマにしたストーリーを膨らませていく。千佳との関係がばれたと思った俊夫は、ラフを盗み見した負い目もあり黙っている。その間にも、漫画の中の佐和子と新谷の仲は深くなっていく。佐和子の意図がわからぬまま戸惑い疑心暗鬼になっていく俊夫。なに食わぬ顔で教習所への送迎を俊夫にさせる佐和子。常に先手を打たれ運命を握られている、佐和子の手のひらの上で踊らされている俊夫の不安と恐怖がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

佐和子の筆は進み、彼女の漫画と彼らを取り巻く現実がシンクロしていく。果たして佐和子はどこまで本気なのか、自分に何を求めているのかわからぬまま俊夫は混乱していく。さらに、千佳まで騒動に加担し混乱に拍車をかける。ただ、佐和子の深謀遠慮が解明されていく過程はかなり無理があり、とても共感するまでには至らない。ユニークな展開だが、新谷のキャラ設定が強引すぎた。

監督     堀江貴大
出演     黒木華/柄本佑/金子大地/奈緒/風吹ジュン
ナンバー     163
オススメ度     ★★*


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https://www.phantom-film.com/watatona/

テーラー 人生の仕立て屋

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規則正しペダリング、その速さに合わせて上下する縫い針。足踏み式ミシンが発するリズムはまるで軽やかな音楽を聴いているかのようだ。物語は、老舗テーラーを営む男が女性向けに商売替えをしたことから起きる新たな人間関係を描く。父と2人きりで男性客ばかりを相手にし、恋する時間も機会もなかったのだろう。老眼鏡が必要な年齢になっても妻子はいない。職場も自室もきれいに整えられ、商売柄身だしなみには気を遣う。だが、それが敷居を高くしているのか、単に高級すぎるのか、今や時代遅れの商売になっている。待っていても客は来ない、ならばこちらから出向くまでとばかりに、拾い集めた廃材で屋台を作る。サイズを測り、木を切り、ねじで止める、その器用さには関心。普段針仕事をしている彼の指先の感覚の鋭さが印象的だった。

商売道具を積んだ屋台で市場に出たニコは、まったく売り上げがない状態が続く中、ウェディングドレスの注文を受ける。婦人服は初めてだったが、隣人のお針子・オルガに手伝ってもらう。

寡黙なニコは会話中もほとんど喜怒哀楽を顔に出さない。オルガの娘・ヴィクトリアだけは彼に懐いているが、まじめな堅物というイメージのまま。古き良き時代の名残なのか、客とも素材や仕立てや値段については話をするが、世間話はしない。それでもオルガやヴィクトリアといる間は、少しは心がときめいている。オルガの夫に感づかれ絡まれたりもするが、なんとかやり過ごす。そんなニコの感情表現は抑制が効いている一方、様々なカメラワークがニコの心中を饒舌に代弁し、彼の心に花が咲いていく過程を独特の温かさで再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ニコのウェディングドレスは評判を呼び、次々と依頼が来る。同時に屋台で販売していたオルガの作った婦人服も売れ始める。大量製品にはない手作りの1点ものばかり。ギリシアでは職人の思いがこもった服が青空市場で手に入る。客は常に値切り、売り手も相応に値引く。それにしてもウェディングドレスが400ユーロは安すぎないか?

監督     ソニア・リザ・ケンターマン
出演     ディミトリ・イメロス/タミラ・クリエバ/タナシス・パパヨルギウ/スタシス・スタムラカトス/ダフネ・ミチョプールー
ナンバー     162
オススメ度     ★★★


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https://movies.shochiku.co.jp/tailor/

アナザーラウンド

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職場でも家庭でもどこかぎくしゃくしているのは素面のせいだから? ただ酒を飲みたいだけなのに、無理やり理由をつけて朝からほろ酔い状態になる男たち。物語は、“血中アルコール濃度を0.05%にすると人生が変わる” という論文を信じた高校教諭4人組が、日常生活でその理論を実証していく過程を描く。酩酊しない程度に飲んだ酒は確かに気分を高揚させ、言動も積極的になる。何をやってもうまくいかなかった自分が突然輝きだしたような爽快感に浸れる。だが慣れるにしたがって心も体はさらに強い刺激を欲するようになる。自制の利かない弱さと酒に責任転嫁する狡さ、そんな人間のありのままの姿を丁寧に活写した映像は、愛おしむような優しさに満ちている。なにより、教訓めいたことを押し付けず、あくまで人生を肯定する視点が心地よい。

マーティンは出勤前から顔に出ない程度に酒を飲み、その状態を維持するために学校でも隠れて飲み続ける。すると授業内容が充実し、生徒たちも真剣に話を聞くようになる。

他の3人も同様で、明らかに0.05%効果を実感している。飲酒するだけでなく、トイレで呼気を検査するなど、実験としてもまじめに取り組んでいる様子が笑いを誘う。マーティンは学校だけでなく距離を感じていた妻との仲も修復、0.05%理論を証明する。このあたり、生きるのは酔っぱらうこととでも言いたいような開き直りぶりで、運転して事故を起こしたり暴力沙汰に巻き込まれたりとかいった飲酒に対するネガティブなエピソードが一切ないのが清々しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

血中アルコール濃度の制限をはずした4人は暴走し始める。家飲みで泥酔し、スーパーで迷惑をかけ、酒場で暴れ、道路で寝込む。教育者がこんなことをして生徒や保護者に見つかったら、日本では職を失う羽目になるだろう。さらに、暴走気味になっても、基本的に自由が尊重されているのか、家族以外は個人の事情に立ち入らない。そのあたりも含めデンマーク人の考える人権は、日本とは根本的に違うと感じた。いい悪いは別にして。。。

監督     トマス・ビンターベア
出演     マッツ・ミケルセン/トマス・ボー・ラーセン/マグナス・ミラン/ラース・ランゼ/マリア・ボネビー
ナンバー     161
オススメ度     ★★★*


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https://anotherround-movie.com/

科捜研の女 劇場版

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“助けて” と口にして高所から飛び降りた女と男。自殺なのか他殺なのか、彼らの遺体と遺留品を詳細に検分すると奇妙な共通点が見つかるが、それらの点を結ぶ線が見つからない。物語は、2人の死を「事件」として調査する科学者と刑事の活躍を描く。ひとつ謎を解けばまた別の難題が立ちはだかる。強い関連が疑われる最先端技術開発中の科学者は、カルト指導者のような雰囲気をまとい弟子たちの心をコントロールしている。鉄壁のアリバイがあるだけにかえって怪しい。そんな男に挑むヒロインは超絶美人なのに色気は感じられず、年齢を重ねても表情は若々しい。そしてどんな感情も目を大きく見開くだけで表現する。彼女を演じる沢口靖子の存在感には圧倒された。いまだ少女のような清純派ぶりは、もはや吉永小百合の域に達している。

京都でウイルス研究者と細菌学者が相次いで不審死を遂げる。科捜研のマリコは殺人事件の可能性を疑う土門刑事とともに、夢のダイエット薬を開発中の科学者・加賀野に事情聴取する。

犠牲者2人の衣服から同じ成分が検出されたり、死の直前に同じスマホから電話を受けていたり、直前に加賀野と面会していたりしたことから、さらに事件性が増していく。一方、東京・八王子にある研究室では双子を使った人体実験が行われているなど、加賀野はマッドサイエンティストのにおいがプンプンする。こわもての土門が研究室や無菌室に土足でずかずかと入るシーンは、警察権力の横暴を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

俳優たちの演技は大げさでわかりやすく、セリフもすべて解説調。それらは、TVドラマからのファン向けの「お約束」なのだろう。非理系者というか、視聴者である60歳前後の専業主婦層にもきちんと理解できるような配慮がなされ、予備知識なしでも流れにはついていける。京都八王子間の空間的距離や、協力者が現れるタイミング、見え透いた伏線とどんでん返しといった、「映画作家」なら絶対にやらない演出がてんこ盛りで、こういう映像表現もあるのかと、ある意味楽しめた。

監督     兼崎涼介
出演     沢口靖子/内藤剛志/佐々木蔵之介/若村麻由美/風間トオル/片岡礼子
ナンバー     160
オススメ度     ★★*


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https://kasouken-movie.com/

シャン・チー テン・リングスの伝説

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2両連結のバスに乗車中、いきなり数人の暴漢に襲われる主人公。運転手は倒れ、暴走する狭い空間で相手の攻撃をかわして蹴りや突きを見舞い、座席を飛び越えポールを利用し瞬く間にザコを片付ける。最後に現れたのは右手が剣の男、内装をぶった切りながら迫って来る。前半の山場ともいうべきスピードとスリル抜群の映像は、全盛期のジャッキー・チェンを思い出させる。物語は、ダークサイドに堕ちた父の暴走を止めるために故国に戻った若者の奮闘を追う。少年時代から鍛え上げられた武術は、父との葛藤で封印していた。だが、妹の身に危険が迫り、戦わざるを得なくなる。そして知った父の秘密と母の思い。拳を交える前に右足で半円を描く、カンフーを基礎にしたアクションは優雅な形式美に満ち溢れ、礼を重んじる東洋的思想が新鮮だった。

相棒のケイティと共にマカオに飛んだシャン・チーは地下格闘技場を仕切る妹・シャーリンと再会、両親が出会った村・ターロウを目指す。動く竹藪の迷路を抜けた先は桃源郷のような村だった。

地下格闘技場で繰り広げられるガチファイトから、竹を組んだビルの足場を使った格闘など、一瞬の気も抜けないほど目まぐるしく展開する。さらにシャン・チーは父とも再会、過去の因縁が再燃する。このあたり、父とシャン・チー兄妹の間にある葛藤に深みがない。まあこの親子にしかわからないねじれた愛憎が絡んでいることはわかるのだが。そしてCGの比率が高まるにつれ、映画は肉体性を失っていき、俳優たちの動きも舞踊のようになっていく。中国的な神秘性を持たせようとする試みは斬新さに欠けていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

村人たちが守ってきた魔界の門が解き放たれた後は、薄っぺらなデジタル創作物のオンパレード。2時間以上の上映時間ずっとテンションを保ち続ける作品のパワーはすさまじいが、登場人物にもう少し奥行きがあればもっと楽しめたはずだ。ただ、ケイティを演じたオークワフィナの小さな体から発散されるパワーには圧倒された。むしろ彼女を主役にしてほしかった。

監督     デスティン・ダニエル・クレットン
出演     シム・リウ/オークワフィナ/メンガー・チャン/フロリアンムンテアヌ/ベネディクト・ウォン/ミシェル・ヨー/トニー・レオン
ナンバー     159
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://marvel.disney.co.jp/movie/shang-chi.html

モンタナの目撃者

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この少年だけは命に代えても守らなければならない。トラウマを抱えるヒロインは知識と経験を生かして追手と山火事を相手に奮闘する。物語は、陰謀の証拠を握る少年を山中で保護した消防団長が、深い森を逃げながら腕利きの殺し屋を迎え撃つ姿を描く。高度な訓練を受け重武装している上に情け容赦なく暴力を行使できる男たちは、女子供相手でもためらわずに引き金を引く。森の男たちは勇敢だが知略に欠け次々と彼らの餌食になる。一方で、消防団長とサバイバル教室の妊婦という女たちは男たちより数倍冷静に状況を見極め反撃のチャンスを待っている。迫りくる炎は少しの風向きの変化でどう動くかは予測がつかない。フェミニズムにおもねった展開の中、実は無理ゲーを押し付けられている殺し屋たちが切なかった。

監視塔での任務中に落雷に合ったハンナは、ひとりで山中を歩く少年・コナーと出会う。コナーは目の前で父親を惨殺された上、自動小銃を持つ2人組の殺し屋に追われていた。

殺し屋たちはまず保安官のイーサンを訪ね、妻のアリソンから情報を引き出そうとする。アリソンは巧みに脱出するがイーサンは殺し屋に捕まりガイドをさせられる。そして、停電で機器が使えなくなった監視塔を舞台に生き残りをかけた戦いが始まる。ただ、50年前の映画ならばこの流れでも通用するだろうが、もう二転三転させないと現代の映画ファンは満足しないだろう。もっとアクションと仕掛けに工夫がほしかった。それにしても、コナー父子は北米大陸を横断するのに何十時間ドライブしたのだろうか。。。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

山林という自分たちにとってホームでの戦い、ならば地形や風の向き、山火事の炎を利用した戦術があったはず。ヘレンが砂袋を正確に投げたりトラックの荷台で開傘したりという導入部の出来事がまったく伏線として生かされていない原始的な決着の付け方には、開いた口がふさがらなかった。そもそも天候が変わりやすい山で落雷など日常茶飯事のはず、監視塔に備えがないのはいかがなものか。

監督     テイラー・シェリダン
出演     アンジェリーナ・ジョリー/ニコラス・ホルト/フィン・リトル/エイダン・ギレン/メディナ・センゴア/タイラー・ペリー/ジョン・バーンサル
ナンバー     158
オススメ度     ★★


↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/mokugekisha/