こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゆれる

otello2006-09-18

ゆれる


ポイント ★★★★
DATE 06/9/15
THEATER シネ・アミューズ
監督 西川美和
ナンバー 154
出演 オダギリジョー/香川照之//
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まじめな働き者で与えられた人生を受け入れている兄と、奔放に運命を切り開いていこうとする弟。兄が弟に抱いているコンプレックスと弟が兄に抱いている優越感。血を分けた兄弟だからこそ、心の奥底にくすぶっているお互いへの不信感がふとしたきっかけで爆発する。もはや子供の頃のような無邪気な関係には戻れない。それでも血縁は断ち切れない。我慢に我慢を重ねて生きてきた兄が、ひとりの女をめぐって、弟とのしがらみ、ひいては世間への鬱憤を晴らす。しかしその方法は哀しいまでに愚かで、複雑にねじれてしまった感情は修復するすべを持たない。


写真家の猛は母の一周忌に実家に帰り、幼馴染の智恵子と再会、早速関係を持つ。しかし、智恵子は猛の兄・稔が経営するガソリンスタンドで働いていて、稔は密かに智恵子に思いを寄せていた。翌日、3人で渓谷に出かけるが、稔と智恵子がつり橋を渡る途中、智恵子が転落死する。


自分を抑えて生きてきた人間が突然壊れる。それも他人を傷つけるのではなく、自分を罰するという方法で。平凡すぎる生活にうんざりしている上に、好きな女を弟に寝取られても文句ひとついえない。そんな男の微妙な感情の揺らぎを香川照之は見事に演じ、その精神の修羅場をカメラは鋭利なナイフのように容赦なく抉り取ってゆく。拘置所の面会室で稔と猛が対面するシーンは、兄弟として生きてきた二人の歴史が正面衝突し、その緊張は客席にまでほとばしる。


稔にとって、自分の人生は人殺しの汚名を着てまで変えたかったものだったのか。それほどまで自己を嫌悪しながら、その気持ちを押さえつけて生きてきた閉塞感。前日に猛が寝た女を殺したことにしたいのは、才能、ルックス、あらゆる点で弟に劣る兄が最後に見せた意地なのだろう。だからこそ猛も真実を知りながら、稔の気持ちに応える証言をする。7年の時を経て、最後に稔が猛に見せた笑顔は、すべてのわだかまりが吹っ切れたさわやかなものだった。


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