こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チョコレート・ファイター

otello2009-04-30

チョコレート・ファイター

ポイント ★★★
DATE 09/4/27
THEATER EB
監督 プラッチャヤー・ピンゲーオ
ナンバー 99
出演 ヤーニン・ウィサミタナン/阿部寛
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


しなやかに伸びた脚があごを砕き、鳩尾をえぐり、脳天を衝く。柳の枝のようにしなる柔軟な体は敵の動作を見切り、間一髪で攻撃をかわす。さらに驚異的な跳躍力は1対多数の格闘シーンを立体的に見せることに成功している。かつて香港映画のアクション俳優は命を張って面白い作品を残そうとしてきたが、最近はすっかりCGとワイヤーに頼るようになった。しかしタイ映画界ではまだまだ、身の危険を冒しても「誰も真似のできない映像」を作ろうとする熱意に満ち溢れている。もはやストーリーなど二の次、純粋にヒロインの闘いに身を浸しているだけで時間を忘れてしまう。


ギャングのボスの愛人だったジンは、日本人ヤクザとの間にゼンという娘をもうける。ゼンは知的障害を持つものの、抜群の動体視力と、格闘技のテクニックを一度目にしただけでマスターする特技を持っていた。ゼンは幼なじみのモンと共に、借金の取立てを始める。


ゼンは街なかで絡んできた数人の不良どもを一瞬の足技でぶちのめしたかと思うと、製氷工場、倉庫、精肉屋と次々に回収先で大暴れする。最初は直線的な動きながら、徐々に相手の力を殺ぐ曲線的な防御も取り入れ、家具や道具を使って空間を利用する戦い方に変化していく。屈強な男たちを何人も敵に回し、あらゆる体の部位を使って応戦するゼンの姿はむしろ芸術的ですらある。水鳥のごとく優雅に舞い、隼のようなスピードで仕留める。ゼンを演じたヤーニン・ウィサミタナンの身体能力の高さがこの作品のすべてといっても過言ではない。


そしてクライマックスのボスのアジトでの大立ち回りは、道場からビルの屋上、空中の看板から非常口まで舞台を移しての武闘大会の様相をみせる。そこでも、数十人の男と単身相対するゼンの繰り出す拳や肘、膝などムエタイとテコンドーの複合ワザはますます高度に洗練され、幅の狭いひさしの上での乱闘は上下の動きを加えたアクロバットのよう。人間の限界に挑むすさまじいまでの執念がスクリーンからほとばしる。生身の肉体に対するこだわりを捨てない作り手の理想が最後まで貫かれていた。


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