こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

桜田門外ノ変

otello2010-09-10

桜田門外ノ変

ポイント ★★★
監督 佐藤純彌
出演 大沢たかお/北大路欣也/池内博之/長谷川京子/柄本明/生瀬勝久/西村雅彦/伊武雅刀/加藤清史郎
ナンバー 205
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一面に雪化粧が施された大通りを行く駕籠行列が、見物人に潜んでいた刺客集団に襲われる。虚をつかれた護衛たちは抜刀する間もなくうろたえ、逃げまどい、太刀を浴びて倒れていく。真っ白に地面を覆った雪に真っ赤な花が咲くように鮮血が飛び散り、やっと応戦体制に入った護衛と襲撃側があちこちで斬り合い、敵味方が入り乱れる。それは時代劇用の派手な殺陣ではなく、あくまで太平の世で真剣勝負などした経験のない者同士が、高揚しながらも半ば怯えつつ刀を振るうという激しい動悸が伝わってくる映像。芝居がかった演出を省いたこの「桜田門外ノ変」シーンは、まるで現場での目撃者のような気分にさせてくれるほど圧倒的なリアリティに満ちている。


開国を独断で進める大老井伊直弼に対し、藩主・徳川斉昭の意をくんだ水戸藩士たちが脱藩して井伊暗殺を企てる。関鉄之助率いる実行部隊は桜田門外で井伊の首級をあげるが、事件後京都挙兵を約束していた薩摩藩に裏切られ、斉昭の保護も受けられず、生き残った者は散り散りになる。


計画に加担した者は指名手配となり、あるものは追い詰められて自刃し、あるものは捕らえられて江戸送りになる。薩摩の仕打ちに怒りと絶望をあらわにするもの、運命と諦めおとなしくお縄をちょうだいするものさまざま。そんな中、関は1人で市中に潜伏しつつ薩摩に向かったり鳥取で大義を訴えるが退けられ、密かに常陸の国に戻る。このあたりは史料が少ないのか結果だけを見せるだけに終わっているが、せっかく黒船来航をナマで見たのだから、関が抱いた“国を変えようという夢”の具体像を語ってほしかった。


◆以下 結末に触れています◆


幕府の中枢にいる人物を暴力で排除したのは紛れもなくテロ。映画は関を歴史を彩るヒーローやガチガチの狂信者ではなく、三味線を弾いたり遊女を囲う普通の人として描く。一方で、自分たちがやらかしたことの重大さに後悔の念を抱かせたりもする。しかし、前半のクライマックスである井伊暗殺の出来栄えに比して、水戸烈士全員の「その後」のエピソードは躍動感に乏しい。もう少し人間臭さを前面に出すような作り込んだドラマを用意してもよかったのではないだろうか。