こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クロッシング

otello2010-09-24

クロッシング BROOKLYN'S FINEST

ポイント ★★★
監督 アントワン・フークア
出演 リチャード・ギア/イーサン・ホーク/ドン・チードル/ウェズリー・スナイプス/ウィル・パットン/エレン・バーキン
ナンバー 215
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


社会正義の実現を信じていた若い日々はすでに去り、薄給とストレス、やりがいのなさといった日常に疲れきっている警察官たち。理想とはほど遠い現実に、時に自分自身を見失いそうになっている。映画はNYブルックリンの犯罪多発地域に勤務する3人の警察官に焦点を当て、相手が銃を持った犯罪者とはいえ人が殺し殺される場面を普段から目にしている男たちの希望なき現在を描く。NY市警の制服警官の初任給が年2万ドルというのは驚いた。


麻薬犯罪強行班のサルは身重の妻と5人の子のために新居に引っ越そうとするが資金が貯まらない。潜入捜査官のタンゴは危険な命令ばかりを下す上司よりも命を救ってくれた麻薬組織のボスに友情を感じている。定年退職目前のエディは新人警官の教育係を任じられる。


3人に共通する思いは“自分とはいったい何なのか”という自己喪失感。命懸けで職務に励んでいるのに一向に報われず、イラ立ちばかりが募っていくサルとタンゴ。どうせ頑張っても貧乏くじばかりで人生が上向くことはないと悟り、ならばなるべく何もしないでおこうと考えるエディ。エディは目標を失ってしまったサルとタンゴのなれの果ての姿だ。そんな、同じ署に勤めながらも接点がない3人の運命が、それぞれの抱える問題と事件をきっかけに同じ団地内で交叉していく。


◆以下 結末に触れています◆


精神的に追い詰められたサルとタンゴは、平常心をなくして暴走する。一方で、警官バッジを返納したエディは犯罪現場を目撃し単独で尾行する。任務に忠実な者が己を制御できなくなり、やる気のなかった者が退職した途端に警官としての使命感に目覚める皮肉。いや、エディとて本来は警官としての責務を立派に果たしたかったのだ。このクライマックスが警察組織の矛盾と腐敗を象徴していた。だが、行方不明の若い女を売春組織から救い出す手柄を立てたのに、エディは表情が晴れない。そのあたり、やはり良心に従ったとはいえ、人を殺した後味の悪さは拭いきれないのだろう。警察官という職業に就く者が背負う苦悩がリアルに再現されていた。