こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シリアスマン

otello2011-03-02

シリアスマン A SERIOUS MAN

ポイント ★★★
監督 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演 マイケル・スタールバーグ/リチャード・カインド/アダム・アーキン
ナンバー 53
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


身の回りに起きたことをあるがままに受け入れる。人生に意義や目的を求めたり、よき人であろうとする努力など、運命という大きな力の前では無力、ならば人はなすすべもなくその流れに従わなければならないのか。職場でも自宅でも次々と理不尽で不運なトラブルに巻き込まれる主人公が、なぜこんな目ばかりに会うのかと神に問い掛けるが、神は決して応えようとしない。物語は真面目な小市民風の男が体験する不幸の数々を描きつつ、人間はどのように生きていくべきかを問う。


ヘブライ学校の教師・ラリーは落第した学生から賄賂を渡され、買った覚えのないレコードの代金を請求され、さらに家に帰ると隣人が境界線を侵し、妻から別れ話を突き付けられた上に家から追い出され、交通事故にまで会う。


ラリーはユダヤ教の敬虔な信者なのだろう、自らの苦悩を和らげるべくラビを訪ねるが、抽象的な禅問答に終始し納得できる回答は得られない。特に2番目のラビが話す歯医者のエピソードは、寓意に満ちていてる上に予想もしない展開に期待が膨らむ。だが結局なんの教訓にもなっておらず、恐ろしいほどの消化不良感が残る。しかしそれは、オチは自分の頭で考え導き出せというアドバイス。つまりは己の未来を過去の出来事になぞらえるのではなく、己の意志で切り開いていかせるための暗示なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


やがてラリーは弁護士からの高額な請求書を見て、学生からの賄賂を懐にいれてしまう。また、彼の息子・ダニーはマリファナに手を染めている。彼らの街に襲い掛かる巨大竜巻は、そんな不正に手を染めたラリー親子に対する神の怒りなのか、それとも小さな悪事などすべて洗い流してくれるラッキーなリセットボタンなのか。もちろんコーエン兄弟は明確な答えを示したりせず、ただ、判断を見る者に委ねる。その上で、“だから何なのだ”と思わせるラリーに降りかかる災難を通じて、観客は価値観を試される。冒頭の悪霊の挿話を含めて、誰かについ話したくなるような作品だった。まあ、「それでどうなったの」と突っ込まれるのは確かだが……。