インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
Inside Llewyn Davis
監督 ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演 オスカー・アイザック/キャリー・マリガン/ジョン・グッドマン/ギャレット・ヘドランド/F・マーレイ・エイブラハム/ジャスティン・ティンバーレイク
ナンバー 47
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
カネ無し宿無しツキも無し、負け犬のような男が爪弾くメロディと哀切を帯びた自虐ソングは、しかしどこかで聴衆の心に引っ掛かる。ケンカして見捨てられても、いつの間にか誰かの好意に甘えている一方で、罵倒されても聞き流す図太さがある。何もかもふがいなく中途半端、ところがそれはある種の魅力となって、かえって周囲の人々は彼を放っておけなくなる。物語は場末のライブハウスで食いつなぐフォークソング歌手のうだつの上がらない日常を追う。すべてが思い通りにいかないが、現実に抗ったり否定したりせず、黙って受け入れる。這い上がろうともがいているわけでもなく、何かと戦っているわけでもなく、自分探しをしているわけでもない。それでもそこはかとなく漂うユーモアが、主人公の人生を愛おしいものに感じさせる。
知人のアパートで目覚めたフォークソング歌手のルーウィンは、飼いネコを抱えたまま地下鉄で出かける。それは、レコード会社に支払いを渋られ、歌手仲間のジーンには妊娠を告げられ、実家の姉からは説教されるなど散々な日々の始まりだった。
さらに夕食に招かれた席で悪態をつき、友人の知り合いのクルマでシカゴに向かうが態度の悪いオッサンに絡まれた挙句、クルマを捨てる羽目になる。決して大きな不幸には遭わないが、次々に起きる小さな不運の連続にルーウィンは翻弄される。その過程で、やっつけ仕事はきちんとこなすがギャラなしでは絶対に歌わず、己の音楽性を変えるのを拒むなど、プロとしてのプライドは高い。わがままでだらしないけれどお人よしで歌はうまい、そんなルーウィンのつかみどころのないキャラクターをオスカー・アイザックが独特の雰囲気で演じ切る。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
もはや運も才能も尽きたとルーウィンは漁師になってやり直す決意をするが、ここでもちょっとした手違いで漁船に乗せてもらえない。結局ライブハウスに舞い戻ってまたステージに立つ。そう、歌うことは彼の運命。この作品は、信じた道を迷わず進めという啓示なのだ。
オススメ度 ★★★*