こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゼロの未来

otello2015-03-06

ゼロの未来 THE ZERO THEOREM

監督 テリー・ギリアム
出演 クリストフ・ヴァルツ/メラニー・ティエリー/ルーカス・ヘッジズ/デヴィッド・シューリス/マット・デイモン
ナンバー 45
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

高性能計算機と大型ディスプレイの横でアンティークの電話がベルを鳴らしている。古い教会はひとりで暮らすには無駄に空間が広い。厳重に鍵をかけたドアから一歩外に出ると、人工的なカラーに彩られた街や小型のクルマ、しつこく付きまとう電子看板などがまがまがしい毒気を吐き出している。物語は近未来ともパラレルワールドとも解釈できる、コンピューターネットワーク化が発達してはいるがそれ以外の文明は確実に退化した時代、“人生の意味”を探しつつ難解な数式に挑む主人公の孤独を描く。洪水のごとく押し寄せるユニークな映像は知覚を素通りして脳を直撃し、イマジネーションの限界を一気に広げてくれる。

巨大IT企業の技術者・コーエンは、1本の電話を待ちながらプログラムの研究を続けている。ある日、上司に誘われたパーティで経営者に在宅勤務を訴え叶えられるが、想像を絶するハードな謎・ゼロの定理の解明を求められる。

何度挑戦してもゼロの定理は一向に証明できない、一方パーティで知り合った美女・ベインズリーがコーエンを訪れ、誘惑する。さらに天才プログラマー・ボブの助けを得て、ベインズリーとネットを通じた交歓を可能にする。自分自身を“I”ではなく“we”と複数形で呼ぶコーエンは、日常生活をマシンに依存し己の意志でさえも共有されていると思っているのだろう。赤いコスチュームに身を包んでオンライで結ばれたベインズリーと至福の時を過ごすコーエンの恍惚とした表情が、現実社会の生きづらさを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

テクノロジーの進化は人間を幸福にするどころか、豊かさとは対極の忙しない境遇に追い込んでいる。そして心が休まるのはもはやバーチャルリアリティの中だけという強烈な皮肉。その上で、あらゆるところに仕掛けられた監視カメラが管理社会の暗い未来を予言する。重力と時空の特異点に落ちていく感覚こそ、彼が生きている実感を手に入れた瞬間なのかもしれない。その先にあるのは「マトリックス」のような世界であっても。。。

オススメ度 ★★★

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