こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

人生、ここにあり!

otello2011-07-08

人生、ここにあり! SI PUO FARE


ポイント ★★★
監督 ジュリオ・マンフレドニア
出演 クラウディオ・ビジオ/アニタ・カプリオーリ/アンドレア・ボスカ/ジョヴァンニ・カルカーニョ/ミケーレ・デ・ヴィルジリオ/カルロ・ジュセツペ・ガバルディーニ
ナンバー 157
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


床板を張るのに、規格通りの長方形の板が足りない。そんな時思いついたのは廃材を使った寄木細工。色も形も様々な木片を巧みに組み合わせて並べ美しい星形を作っていく。それは、この作品の登場人物たちと同様、社会の規格から排除された者たちでも、知恵を寄せ力を合わせればきちんと機能する事実の象徴。しかも、彼らの独創的なアイデアとセンスは“正常”な頭では発想できないほど洗練されている。物語は精神疾患を持つ人々に労働の場を提供しようと奮闘する主人公と、彼によって魂を解放された患者たちの姿を通し、人は生きるために何が必要かを問うていく。


1983年イタリア、組合活動家のネッロは精神病患者の組合を任され、彼らに働いてカネを稼ぐ体験をさせようとする。展示会で材料が不足した時、芸術的才能のあるジージョの機転で寄木張りに変更、クライアントに絶賛される。


その後も患者たちに仕事を割り振って、寄木床を事業として運営しようとするネッロ。患者たちは元々心を病んでいるものの知能が劣っているわけではなく、適性に合った役割を与えられこなしていく。その様子を美談仕立てにせず、男性患者たちの性欲処理のために娼婦に払うカネをECの補助金で賄おうとするなど、“男”として避けて通れない部分までコミカルに味付けして描き込む。そこにあるのは社会的弱者に対する監督の優しい眼差し。彼らも人間であることを徹底的に肯定するスタンスが好ましい。


◆以下 結末に触れています◆


だが、一般健常者の彼らへの心理的な壁は決してなくならず、ジージョは工事現場の娘との恋に破れる。もちろん哀しい出来事だが、映画はフッた娘を責めようとはせず、ジージョの失恋と死を淡々と受け止める。精神病患者が当たり前に活躍する世界は理想、でも恋愛におけるバリアフリーは非常にハードルが高いという現実。このあたり、単なるサクセスストーリーと一線を画しており、まずは彼らの自立から始めようとするエンディングの後味は清々しい。