こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シチリアーノ 裏切りの美学

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だれもがその存在を知っているのに、みな口をつぐんでいる。構成員の名前と命令系統は秘密で、絶対に外部に漏らしてはいけない。物語は1980年代、マフィアのボスがシチリアに深く根を張った犯罪シンジゲートの全貌を明らかにし、同業者と法廷で対決する過程を描く。麻薬利権をめぐって抗争を繰り返し、海外にも事業展開をする。逮捕され収監されても刑務所内に女を呼ぶ。労働者たちからは仕事をくれると支持されている。市民の暮らしに浸透し、下級官吏は買収され、司法の手は及ばない。主人公はそんな犯罪組織の実態を余さず判事に話し、代わりに別の身分を得るが、いつも暗殺者の影に脅えている。家族と入ったレストランで聞いた歌に反応するシーンに、裏切り者の絶え間ない不安が凝縮されていた。

抗争の調停に失敗したブシェッタはブラジルに拠点を移し違法ビジネスを続けるが、現地警察に逮捕されイタリアに送還される。ファルコーネ判事に説得されたブシェッタはマフィアたちの罪状を打ち明ける。

ブシェッタの証言で逮捕されたマフィア幹部たちの公聴会の様子が興味深い。数人の法曹を前に証言ブースに入ったブシェッタが質問に答える。ブシェッタの背後には仕切られた小部屋があり、彼が告発したマフィアが数人ずつ収容されている。彼らはブシェッタを見守っていて、時にヤジを飛ばす。そしてブシェッタと直接対峙し、真実と欺瞞を戦わせる。どちらが嘘つきなのか、当事者にしかわからない。かつての仲間と罵りあう中で、沈黙を守れる者だけがコーザ・ノストラであり、その誓いは法を超越した血の掟だと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

えげつないこともするが人情に篤く恐れられる以上に尊敬される “ゴッドファーザー” 像と、ブシェッタは程遠い。米国で隠遁するようになってからは、妻を愛してはいるが子供を見捨てたり、スーパーでライフルを買ったり。一介の市民として地味な生活を送りつつ、血気盛んな頃を思い出したりもする。その姿は、どんな人間も孤独と死は避けられないことを象徴していた。

監督  マルコ・ベロッキオ
出演  ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ/ルイジ・ロ・カーショ/マリア・フェルナンダ・カンディド/ファブリツィオ・フェラカーネ/ファウスト・ルッソ・アレジ/ジョヴァンニ・カルカーニョ
ナンバー  142
オススメ度  ★★★


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