グッド・ドクター 禁断のカルテ THE GOOD DOCTOR
ポイント ★★
監督 ランス・デイリー
出演 オーランド・ブルーム/ライリー・キーオ/J・K・シモンズ/タラジ・P・ヘンソン/マイケル・ペーニャ
ナンバー 288
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
診察とミーティングに忙殺されひと息つく間もない。患者には殺生与奪の権を持ち、ナースや職員に対しても優位な立場にあるのに、医師としては下っ端で現状は自分の理想とはほど遠い。それでも向上心は失っていない。そんな、まだ年若い研修医を演じるオーランド・ブルームが抑制した演技を見せる。身も心もすり減らし頑張っているのにストレスばかりがたまり、漠然とした不満と不安は一向に解消されない。やがてそれが本人の意識しないうちに悪意に変わっていく。狂気に走ったわけではない、感情のボタンをかけ違えただけ。だが、その変化が医師に起こった時に、とんでもない犯罪に発展する。
腎盂炎で入院してきたダイアンの担当となったマーティンは彼女の美しさに惹かれる。ダイアンの退院後、マーティンは彼女の薬をすり替えて再入院させ、今度は回復しないように小細工を繰り返す。
夜、病室のベッドで寝ているダイアンを見守るマーティンの眼差しは、彼女を慈しむより、手に入れた宝物を持て余しているよう。彼女の肉体は自由にいじれるのに、決して心の中にまでは入っていけない。そういったジレンマがマーティンの中で蠢き、医師の倫理のみならず、人間の良心さえ奪っていく。カメラはその過程を淡々と見つめているのだが、「医師は立派な人」という思い込みからなのか、誰もマーティンに疑いを持たないところに先入観の恐ろしさが潜んでいた。
◆以下 結末に触れています◆
ただ、マーティンだけでなく、ダイアンや彼女の家族、看護師など登場人物が皆腹に一物を抱えている雰囲気を漂わせているのに、伏線となって生きてこないのが残念だ。その後ダイアンの日記をカタに介護士のジミーがマーティンを脅しはじめるが、結局日記の中身も伏せられたまま。病院という閉鎖空間は外の世界とはまったく違う価値観が支配し、人々は独特の空気に毒されていく。その不気味さは伝わってくるのだが、もう少し観客の五感に訴えかける表現を工夫してほしかった。。。