こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幸せへのキセキ

otello2012-06-11

幸せへのキセキ We Bought a Zoo

オススメ度 ★★*
監督 キャメロン・クロウ
出演 マット・デイモン/スカーレット・ヨハンソン/トーマス・ヘイデン・チャーチ/ パトリック・フュジット/エル・ファニング/ジョン・マイケル・ヒギンズ
ナンバー 142
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

どうしていつもぼくの気持ちは後回しなのだろう。最愛のママが急に死んで悲しいのは理解できるし、小さな妹のほうが気になるのは仕方がない。でも、ぼくだって辛いし寂しいのだからもっとかまってほしい……。そんな思いからつい反抗的になってしまう思春期特有の少年の心理がリアルで、彼のスケッチする不吉な絵の数々が満たされない日常を象徴していた。映画は「母を亡くした子供たち」と「経営者を失った動物園」を同時に抱える羽目になった「妻に先立たれた男」の、家族と動物園の再生を通じて、信じ合い支え合う大切さを描く。檻の中の猛獣よりも人間の心のほうがよほど扱いづらいと、つい思ってしまった。

妻の死後、心機一転をはかったベンジャミンは、息子・ディラン、娘・ロージーと共に閉鎖された動物園付の広い家に引っ越す。個性的な飼育員をまとめ再開を目指すベンジャミンだが、運営はまったくの素人、たちまち資金繰りに窮してしまう。

ロージーが楽しそうにクジャクと戯れる姿を見たベンジャミンは動物園購入を即決、さらにスタッフとのミーティング、園内の修繕に忙しい上、幼い妹にばかり目が行く。一方で、家庭内で孤立するディランは邪悪な想像を画用紙の上で具体化する日々を送る。唯一園内のティーンエージャー・リリーが話し相手になってくれるが、彼女ですら知らぬ間に傷つける。まだ自分が何者で何になれるかもわからない年頃で世間から隔絶されてしまったディランの、他人の心中を思いやる余裕のなさと己の胸中をうまく伝えられないもどかしさが切実だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ディランは突撃リポーターだったころのベンジャミンを尊敬していたはず、だが、母が死んで腑抜けになった父には距離を感じている。そして、動物園経営という新たな冒険に乗り出した父を少しは見直し、それ以上に真剣に母とのなれそめを語ってくれたことに、愛されている実感を再認識する。少年は父親の背中を見て育つ、ベンジャミンはディランの理想となったに違いない。

↓公式サイト↓