こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ディクテーター 身元不明でニューヨーク

otello2012-07-31

ディクテーター 身元不明でニューヨーク
THE DICTATOR

オススメ度 ★★*
監督 ラリー・チャールズ
出演 サシャ・バロン・コーエン/アンナ・ファリス/ベン・キングズレー/ジェイソン・マンツォーカス
ナンバー 186
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

もし独裁者が大都会で迷子になったら・・・。身分を証明できず警備担当者に追い返され、同胞の元に身を寄せても周囲は敵意だらけで真実は明かせない。幸い素性はばれず、彼は政権に復帰するために市民に紛れ込み、復活の機会をうかがう。物語はそんな男が、国民が意見を口にする権利が保障され思いのまま生きることが許されている民主主義に触れ、愛を知って変わっていく姿を描く。映画は、21世紀になっても国内を情報統制して、いまだ独裁を続けるテロ国家の指導者のバカバカしさを笑い飛ばす。

北アフリカの独裁者・アラジーン将軍は核疑惑の釈明のために国連本部に赴くが、何者かに拉致される。なんとか脱出するが、トレードマークのヒゲを剃られてしまい誰からも相手にされない。国連では影武者が民主化を宣言していた。

処刑が横行し、自己宣伝に長け、言葉の意味も変え、美女を侍らせ、核兵器を開発する。まさに絵に描いた独裁者生活を楽しむアラジーン。世界中の批判をむしろ称賛ととらえている。その彼のカン違いぶりを下品にコケにし、さらに辛辣な差別が盛り込まれ、その映像に仕込まれたわずかな毒が、見る者に、腹を抱える自分を別の自分が覚めた目で見つめているような錯覚をもたらすあたり、強烈な社会風刺になっている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて地元のエコ活動家・ゾーイと時間を共にするうちに恋という感情を知ったアラジーンは、彼女の思想を理解し始める。そして、無事影武者と入れ替わったアラジーンは会見で民主主義を否定する。米国が唱える民主主義など少数の金持ちによる搾取に正当性を与えているだけ、アラジーンは“真の民主主義”を目指すと演説、それは自由を愛するゾーイに対するプロポーズでもある。結局、どんな体制であっても一部の特権階級が富を独占する構造は同じと喝破するオチは、“民主化”したアラブ諸国を大いに皮肉り、ひねくれた笑いをもたらしてくれた。

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