こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボクたちの交換日記

otello2013-04-01

ボクたちの交換日記

監督 内村光良
出演 伊藤淳史/小出恵介/長澤まさみ/木村文乃/川口春奈/佐々木蔵之介
ナンバー 76
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一緒に走ってきたはずだったのに、気づいたらネタ合わせのとき以外は口を利かない関係になっている。無邪気に楽しめた高校時代とは違い、今ではひしひしと迫りくる限界を感じている。そんなお笑いコンビが現状を打破しようと始めた交換日記。面と向かって言葉にできなかった不満や隠していた秘密を文字にすることで、ふたりは自分たちを見つめ直していく。映画はもはや若手と言えなくなった彼らの焦燥と不安、人を笑わせる厳しさ難しさ、テレビ局の冷酷な仕打ちの中で、それでも必死でお笑いにしがみつこうとする姿を切なくリアルに再現する。プロとして食べていけるのはほんの一握り、使い古された大学ノートが青春の残酷さを象徴する。

売れないお笑いコンビ「房総スイマーズ」の甲本と田中は30歳を目前にこのままではいけないと思い始めていたが、交換日記をきっかけに意見を交わすようになる。やがてふたりはお笑いコンテスト挑戦を決意、新たなネタを模索する。

“最後のチャンス”だけにダメだったらと怖気づく甲本。己の凡庸さを自覚してはいるが、これまでチャンスがなかったからと現実に目を背け勝負を先延ばししてきた彼の弱さが露呈する。一方の田中は文句ひとつ言わずネタ集めに奔走する。このあたり、成功するには面白い目立ちたがり屋というだけではだめで、人間を観察し、検索し、ひねりを加えて笑いに昇華させる地道な努力を続けられる能力こそがこの世界における才能であると物語は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そしてふたりはコンテストに出場するが、甲本がネタを忘れたせいで準決勝で敗退、妻が妊娠中の甲本はコンビ解散を宣言する。桜咲き乱れる公園で最後に彼らが演じるコントが観客に最高にウケるシーンにままならぬ人生が凝縮され、また一つ叶わなかった夢が消えていく瞬間は哀しき笑いに満ち溢れていた。その後、田中の活躍をTVで見た甲本がしみじみとした感慨を抱いたりする場面はやや蛇足の気もするが、更なる後日談の伏線として機能し、エンディングまで涙腺を刺激しようとする仕掛けはサービス精神にあふれていた。

オススメ度 ★★★*

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