こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トゥ・ザ・ワンダー

otello2013-05-30

トゥ・ザ・ワンダー TO THE WONDER

監督 テレンス・マリック
出演 ベン・アフレック/オルガ・キュリレンコ/レイチェル・マクアダムス/ハビエル・バルデム
ナンバー 123
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一緒にいるだけであれほど楽しかったのに。視線を交わせば意思が通じたのに。そしてこの幸せがいつまでも続くと思っていたのに。大勢の人々が行き交う観光地や都会では誰もふたりの邪魔をしなかった。ところが、果てしなく空と大地が広がる田舎ではかえって息が詰まりそうになる。言葉の問題ばかりではない、どこか“ここは自分の居場所ではない”という思いが女の頭から離れず、男との間に隙間ができてしまう。セリフはほとんどない、詩を朗読するようなモノローグと抒情的なメロディ、自然光にこだわった美しい映像で紡ぎだされた一組の男女が経験する愛の始まりと終わりは、芳醇な香りと豊穣な実りに満ちている。その体験はまるで宗教行事に参加しているような荘厳な気分にさせてくれる。

孤島の寺院、モン・サン=ミシェルで知り合った米国人ニールとシングルマザーのマリーナはパリで暮らし始める。その後マリーナの娘と共にオクラホマに移り住むが娘が学校になじめず、マリーナも新たな人間関係を築けずストレスがたまる。

ニールは仕事に出かけ暇はたっぷりあるのに、運転しないマリーナは行動範囲がきわめて狭い。さらに娘がフランスに帰ったことから孤独を深めていく。恋人や娘のぬくもりでは足りない、パリの雑多な人々の息遣いを感じていたい。マリーナの願いはオクラホマの澄み切った空気に吸収され、ニールには届かない。説明を省き状況のみを提示するテレンス・マリックの映像詩は、彼らの感情と未来まで予感させ、見る者のイマジネーションを刺激する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一度は別れたふたりだが、マリーナはオクラホマに戻ってくる。ニールは今度こそ愛を真実にしようと指輪を交換する。それでもイタリア女に“自由”を教えられたマリーナは、もはや愛を信じられなくなっている。一度芽生えた不信、一度作った秘密、ふたりに打ち込まれた楔は深く鋭い。無邪気に笑い合えた出会いのころ、もう戻れない哀しさと切なさが時間と人生を象徴していた。

オススメ度 ★★★*

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