アップサイドダウン 重力の恋人 UPSIDE DOWN
監督 フアン・ソラナス
出演 キルスティン・ダンスト/ジム・スタージェス/ティモシー・スポール
ナンバー 151
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
大好きな女の子は真上から自分を見下ろし、ロープで手繰り寄せなければ上に“落ちて”いく。整然と区画されたオフィスは、床と天井が同じ構造を持ち、従業員も逆さになって働いている。重力が二重に作用する近接した双子の惑星、あらゆる生物も物質も生まれた惑星の引力の影響下にあるという設定のもとに作り上げられた上下対称の中間地帯のビジュアルは、慣れるまで少し意識が混乱するほどその世界観が精緻に再現されている。21世紀の諸問題を凝縮したような搾取と貧困、繁栄と荒廃、支配と隷従。重力によって線引きされた2つの世界はまさに上と下の関係だ。映画は双方に住む、出会ってはいけない男女が数々の障害を乗り越えていく姿を描く。愛を貫くこと、それが運命を切り開き人生を勝ち取る秘訣なのだ。
上の星に住む少女・エデンと下の星のアダムは密会中に警察に見つかり、引き裂かれる。10年後、二つの星を繋ぐ中間地帯のビルに勤務するエデンを見かけたアダムは早速その会社に就職、エデンに会いに行くが彼女は記憶喪失になっていた。
アダムは“逆物質”を身に着け肉体を上の引力に順応させるが、長時間は持たない。デート中に“逆物質”が燃え始め命からがら下に逃げ帰ったりする。その上、アダムの前には引力だけでなく身分格差が立ちはだかる。このあたりの展開は禁じられた恋の物語にありがちなパターンだが、惑星の法則が同じ地平に立てないふたりの間にもどかしさを産み、浮いたり飛んだりと目まぐるしく動かす。感情や理性ではなく魔法のごとき科学でしか問題は解決できない、だからこそそこに夢が入り込む余地ができ、ありふれたラブストーリーをファンタジーに昇華させている。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
二つの惑星の重力方向までは変えられない、それでも秘伝のパウダーを使えば、愛し合うふたりが幸福を分かち合い、人々が出生ではなく能力や人間性で評価される社会が実現できる。希望に満ちたメッセージが提示する明るい未来が心地よかった。
オススメ度 ★★★*