こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

百円の恋

otello2014-12-04

百円の恋

監督 武正晴
出演 安藤サクラ/新井浩文/稲川美代子/早織/宇野祥平
ナンバー 280
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

腰回りにでっぷりとついた贅肉、ボサボサに伸びた髪、生気のない目、たるんだあご。ジャンクフードとTVゲームに浸りきっている三十女は、生きる目的もなく自分探しをする気力もない。物語はそんなヒロインがボクシングを通して成長していく姿を描く。傷つくのが怖くて何をやってもダメと悟りきっていたのに、ジムに通い練習に打ち込むうちに劇的な変化が起きる。縄跳び、シャドーボクシング、ミット打ち……。怠惰という重い心の鎧を脱ぎ捨て別人と思えるほど引き締まった筋肉と鋭い目つきを身にまとっていく過程は、失った過去を清算し未来に向かって歩み始めた証でもある。見事なまでに肉体改造を成し遂げた安藤サクラの熱演が映画にかけがえのない輝きをもたらしている。

ニートの一子は妹とケンカして実家を追い出され、百円ショップで働きだす。常連客のボクサー・狩野の引退試合を見に行ってボクシングに興味を持ち、中年男に犯されたのをきっかけにジムの門をたたく。

一子や狩野だけでなく、百円ショップに集う人々も皆、半ば人格が破たんし社会に馴染めない落伍者ばかり。それでも身勝手さのなかにも見当違いな優しさをみせる狩野に一子は惹かれる。愛と呼べるほど大切なわけじゃない、でも体を重ねることで寂しさを埋めてくれる。人間関係の距離感をうまくつかめない同棲生活でも一子の日常に少しの張り合いができる。そのあたり、彼女のぎこちない恋がもどかしくも愛おしい。ところが、不器用なふたりの幸せが長く続くわけもなく、一子は“女”としての身の程を思い知らされる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてボクシングにのめり込むようになった一子はプロテストにも合格、ジム会長にごり押しして試合を組んでもらう。だが、頑張ったからといって思い通りになるほど現実は甘くないし、あきらめなければ夢は叶うなんて結果論。 「勝ちたかった」と号泣する一子の涙は切なさ以上に美しかった。“人生はボクシングに似ている”、この言葉がこれほどしっくりくる作品に出会ったのは「ミリオンダラー・ベイビー」以来だ。

オススメ度 ★★★★*

↓公式サイト↓