監督 廣木隆一
出演 榮倉奈々/豊川悦司/向井理/安藤サクラ/前野朋哉
ナンバー 37
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
世紀をまたいで時を刻み続ける掛時計。毎日ネジを巻き振り子を揺らせる。規則正しい往復運動と同様、変わり映えのない田舎の暮らしは、不倫に疲れて都会から戻ったヒロインにはむしろ心地よい。物語は、静かな生活を手に入れたばかりの彼女と年の離れた男の奇妙な同居を描く。彼は人の思考パターンには詳しい大学の哲学教授、強烈な拒否感を抱いていた彼女は、男の図々しいまでの強引さと子供のような繊細さが混じった振る舞いに振り回されながらも、いつしか彼に親近感を覚えていく。恋と呼ぶほど激しくはない、愛を実感するほど温かくもない。傷ついた経験があるから傷ついた者の気持ちがわかるのか、あくまでさりげない距離を保つと見せていきなり心に踏み込んでくる。そんな意外性あふれる男の行動に、驚きつつも癒される。
祖母の葬儀を終えたつぐみの前に、醇と名乗る初老の男が現れる。そのまま離れに住み着いた醇は、つぐみの意志も確かめずに結婚する予定と周囲に言いふらす。
事情がよく呑み込めないまま醇のために食事を作り、居座られても追い出す気力もないつぐみ。失恋の深い痛手から立ち直れず、生きる気力も自信も失いかけている。一方、つぐみの祖母と浅からぬ関係にあったらしい醇は、つぐみの反応などお構いなしにマイペースを貫く。きっと祖母からつぐみの事を聞かされていて、彼女をそばで支えてやるのが故人の遺志と考えたのだろう、その目には迷いはない。雨の夜、紛失したネックレスをつぐみにつけてやるシーンには、醇の“真剣に人生と対峙する姿勢”への執着が凝縮されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
その後、母親に捨てられた子供・マコトを預かったふたりは、優しい母・厳しい父の役割を演じるようになっていく。いじけていたマコトもおいしい手料理を作るつぐみと現実を教えてくれる醇に、シングルマザー家庭で味わっていた寂しさから解放される。男女でも親子でも、他人に対して責任を負う、それが愛することだとこの作品は教えられた。
オススメ度 ★★★