カイト KITE
監督 ラルフ・ジマン
出演 インディア・アイズリー/サミュエル・L・ジャクソン/カラン・マッコーリフ/カール・ボークス/テレンス・ブリジット
ナンバー 89
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
法も秩序も崩壊した社会、無法者ばかりが幅を利かせて活気を失った街は暗冷色にくすんでいる。唯一、鮮血を思わせるヴィヴィッドな赤を放つ彼女の髪は、己の人生を生きる強固な意志が残っている証拠。たとえそれが、愛や希望などではなく、怒りと憎しみであったとしても、目的を果たすまでは前に進み続けるのみ。物語は、人身売買組織に父を殺された少女が仇を取ろうとする姿を描く。消えていく記憶、錯綜する情報、裏切りと嘘。そしてたどり着いた驚愕の真実。硬質でスタイリッシュなショットとスピーディな編集、ノリの効いた音楽、それらイメージ重視のTVCMをつないだような映像は刺激に満ち、童顔なのに凶暴なヒロインの未熟さを補っている。復讐でしかアイデンティティを確認できない、さらにその思いも次第に薄れていく彼女の喪失感がはかなく切ない。
売春組織のボス・エミールを探し出すために売られた娘のフリをするサワは、父の同僚刑事・カールから支援を受けながらポン引きたちに近づく。だが、心身強化のために常用していたドラッグのせいで両親の顔を思い出せなくなっていく。
チンピラの頭には躊躇なく銃弾をぶち込み、悪党の急所には正確に刃物を突き立てる。妖しく艶めかしいサワの姿態に隙を見せたら最期、男たちは血まみれの死体に変り果てる。そのあたりの描写は“残酷”と取られかねないが、グロテスクになる一歩手前で抑制しているので不快感には至らない。一方で格闘シーンや暗殺テクニック、逃走時に見せる身体能力に目新しさはなく、あくまでサワの感覚がとらえた“世界”の荒廃が強調される。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがてエミールを倒したサワはカールから衝撃の過去を聞かされる。もはや何もかもが信じられない、自分が両親に愛されていたことすらも疑わしくなっていく。空に浮かぶカイトだけが彼女が存在している証、いやそれもサワの意識の中の出来事かもしれない。そんな不確実な現実が彼女の未来を象徴していた。
オススメ度 ★★*