こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒトラー暗殺、13分の誤算

otello2015-07-30

ヒトラー暗殺、13分の誤算 ELSER

監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル
出演 クリスティアン・フリーデル/カタリーナ・シュトラー/ブルクハルト・クラウスナー/ヨハン・フォン・ビュロー
ナンバー 173
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

建物の見取り図を元に深夜のビアホールに侵入して採寸し、いちばん効果的な場所に立つ柱をくりぬいた空間に、時計仕掛けの起爆スイッチと大量のダイナマイトを埋め込む。仲間はいない。計画立案から情報収集、時限爆弾の設計図を描き、材料を集めて組み立て、爆破実験をし、爆弾を設置し、逃げる。たった一人で。訓練されたスパイでも、ガチガチの反ナチ運動家でも、危機感を募らせたユダヤ人でもない。人妻に手を出したりもするが音楽を愛し家具や時計作りで生計を立てるありふれたドイツ人。ただ、ヒトラーによって自由と平和が奪われていくのを見過ごせなかっただけ。物語はそんな主人公がいかにして爆弾テロ犯になったかを再現する。ナチスの巧みな宣伝と、世の中を覆う空気に同調してしまう一般市民の弱さが印象的だ。

1939年11月、ヒトラー暗殺未遂事件が起き、実行犯のゲオルクはスイス国境で逮捕される。ヒトラーの厳命を受けたネーベとミュラーが尋問にあたるが、ゲオルクはどんな拷問にも口を割らない。だが、恋人・エルサが拘束されと態度を変える。

昼間は湖水浴に興じ、夜はバーで飲んで歌う暮らしを謳歌していた田舎町にもナチスが台頭してきた1930年代前半。共産主義者やユダヤ人への弾圧が始まり、ドイツの輝ける未来を吹聴するナチスをほとんどの市民は礼賛する。違和感を覚えるゲオルクはエルサとの不倫を楽しみながらも、徐々にヒトラーは排除すべしとの確信を深めていく。決して洗脳されたわけではなく、衝撃的な体験があったからでもない。ゲオルクはドイツ人の良心が蝕まれていくことに耐えられなかったのだろう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大戦後、ナチス戦犯のアイヒマンは平凡な人間でも大量虐殺を指揮できるとして「悪の凡庸さ」と評された。ならば、特段秀でた才能も過激な思想信条もないゲイルクの行為は「善の凡庸さ」というべきか。高揚したヒロイズムに浸らず、淡々と彼の日常を追うカメラの視点が、正義感に駆られ行動を起こす勇気は誰にでも備わっていると教えてくれる。

オススメ度 ★★★*

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