こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

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なによりも仕事を優先してきた。なのにもう後がないほど追い詰められている。そんな時見つけた無署名の肖像画。物語は、老境に達した美術商が掘り出し物の絵画を手に入れようと奮闘する姿を描く。作風は高名な画家のもの、しかし証拠となる資料はなく競売場の社長もその価値に気づいていない。老人は最後の大勝負とばかりにカタログ探しと資金繰りに奔走する。最初はひねくれていた孫も、彼の働きぶりに触れるうちにその奥深さに興味を惹かれ協力的になっていく。どんよりと曇ったような映像は、決して好転しない運命を予感させ、破滅に向かってひた走る主人公の未来を暗示する。きっとビジネスでは躓くだろうと思わせながらも、疎遠だった娘との仲も修復できない。自分勝手な生き方を選んできた男の末路が待つ孤独が切ないほどリアルに再現されていた。

オークション会場で男の肖像画を見つけたオラヴィは、それがレーピン作と直感するが確証は得られない。だが、職業体験に来ていた孫のオットーが、亡くなった前の持ち主の遺品から手掛かりを探し出す。

肖像画のオークションが始まると徐々に値は上がるが、なんとしても購入したいオラヴィは食らいつく。ところが、落札したのに手持ち資金では足りない。銀行に融資を断られ仕方なく友人知人だけでなく、離れて暮らすひとり娘のレアにまで借金を申し込む。このあたりのオラヴィとレアの冷めきった関係、さらにオットーの態度などから、オラヴィは家庭を顧みるどころか何度も泣かせてきたような父親だったことをうかがわせる。社会でも成功を収められず家族の愛も得られなかったオラヴィの人生を浮き彫りにしていく展開が緻密に計算されている、その構成力に思わず息をのむ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

なんとかカネを調達し肖像画を受け取ったオラヴィ。さっそくコレクターに連絡を取るが、思わぬ横やりが入る。負のスパイラルを転落していくような重苦しい空気ばかりが漂う中で、オットーが最期に示した思いやりだけが救い。後味の悪さを見事に解消するアイデアだった。

監督  クラウス・ハロ
出演  ステファン・サウク/アモス・ブロテルス/ピルヨ・ロンカ/ヘイッキ・ノウシアイネン
ナンバー  42
オススメ度  ★★★*


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