こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ホドロフスキーのサイコマジック

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幼少の頃に負った精神的な傷を大人になっても引きずっている人々がいる。その原因となっているのはたいてい、父・母・兄・姉などの年長の家族から受けた仕打ち。やった方は軽い気持ちでも、やられた方の潜在意識にはいつまでも不愉快な記憶として残り、現在にまで影響を及ぼしている。カメラは、トラウマを抱えながら生きる老若男女に独特の心理セラピーを施し、症状を改善していく過程に密着する。その根底にあるのは、恐怖や不安、怒りや孤独といった負の感情。彼らは無意識の中にそれらを封印している。それ故に、夢の中ではその箍が外れうなされる。施術者は患者の原体験を探り再現、“自分は大切にされるべき人間” と自信を回復させていく。医学や心理学ではない、芸術家のみがなしえるユニークな解決法が興味深い。

自ら考案した「サイコマジック」という療法で、心理的な病巣を取り除こうとするホドロフスキー。ある者には死を、ある者には誕生を疑似体験させ、苦しむ人々の心の本質に迫っていく。

ひとりひとりに寄り添った施術は、ホドロフスキー自身にとっても実験的である。抑えきれない男性性に悩む女性チェロ奏者が生理の血をもって己の女性性を確認していく事例は特に耳目を引く。全裸の女たちに自らの股間から出た経血を指につけさせ、その血で絵を描かせるなど、希代のアーティストでなければ思いつかない発想。全身金色に染めた男が、頭に浮かんだ言葉をつれづれに口にしながらパリの街を練り歩くシーンは、羞恥心を捨て去ることが過去のくびきから自己を解放する第一歩であると訴えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

診察室や治療室を離れ、施術はすべて日常の中で実践されていく。医者・カウンセラー対患者の一方向的な関係ではなく、ホドロフスキーが行うのは施術者も関わる参加型療法。患者たちが実際に体験し、他者に治してもらったのではなく自らの意志の力で克服したと思わせなければ意味がない。人間心理を学者よりも深く理解するホドロフスキーのイマジネーションには舌を巻いた。

監督  アレハンドロ・ホドロフスキー
出演  アレハンドロ・ホドロフスキー/アルチュール・アッシュ
ナンバー  43
オススメ度  ★★★


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