こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンチグラビティ

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目に映るものが虫食いになっている。空間が歪み建物がねじ曲がっている。物体は上に向かって落下し下に向かって上昇する。人間は水平方向に飛び降り垂直方向に走る。重力が眠りについた太陽の死角のような不思議な場所、男は訳が分からぬまま黒い衣をまとった死神から逃げる。物語は “潜在意識の中で目覚めた” 男が真実を求めて彷徨する姿を描く。肉体が知覚する感覚も心に浮かぶ感情も実態があるかのようにリアル。そして彼はその世界の救世主としての役割を担わされる。細部まで手を加えられた視覚効果は圧倒的なめくるめく感を演出し強烈なドラッグでトリップしている気分になる。本来アナログなはずの脳内現象、いや、体内の情報伝達はすべて電気信号なのだからむしろデジタル的なのか。そんなことを考えさせられた。

目を開けると記憶が飛んでいる。自分が建築家だったような気はする。ぼーっとした頭で外に出てみると奇妙な風景が広がっている。突然漆黒の影に襲われるが、武装した3人組に助けてもらう。

戦闘員に連れていかれた隠れ家で、リーダーから「ここは昏睡中患者の記憶」と告げられる。そこでは住人みなが記憶を共有していてそれぞれに干渉しあっている。現実での彼らはみな意識不明の重病人か重傷者、生命維持装置を装着しつつ潜在意識を相互につなげているのだ。ある意味なりたい自分に書き換えられる理想郷でもある。両脚欠損の男などここでの人生に充実感を覚えている。不自由な体でも魂は自由、夢が叶いその幸せがずっと続くのならば虚構の中にいる方がマシと思うその男の存在が、現実世界での生きづらさを象徴していた。それでも建築家は運命を己の力で切り開く道を選ぶのだが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、アイデア自体は「インセプション」や「マトリックス」の借り物、リーパーという死神は「ハリー・ポッター」の吸魂鬼、宙に浮かぶ安全地帯は「ソラリス」といった塩梅で、オリジナリティには乏しい。夢の中というくくりでクリエイティビティを発揮する難しさを、この作品は図らずも露呈した。

監督  ニキータ・アルグノフ
出演  ライナル・ムハメトフ/アントン・パンプーシュニー/ルボフ・アクショノーヴァ/ミロシュ・ビコヴィッチ/コンスタンチン・ラヴロネンコ
ナンバー  101
オススメ度  ★★*


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