こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悪人伝

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プロレスラーのごとく鍛え上げられた上半身と鋭い眼光の悪相。ひとにらみするだけで素人を震え上がらせるほどの迫力を持つ風貌は、いかにも修羅場をくぐってきたギャングにふさわしい。マ・ドンソク扮する主人公の存在感は、そのまま圧倒的なエネルギーとなってスクリーンにほとばしる。物語は、連続殺人犯に襲われた暴力団のボスがはぐれ刑事と協力して犯人を追う過程を描く。夜道で刺されたのは偶然、だが部下が暴走し緊張関係だった敵対組織に殴り込みをかける。刑事は捜査に行き詰まり、唯一の犯人目撃者であるボスを頼らざるを得ない。普段は憎み合っている同士、それでもルールを決め小康状態は保っている。そんな彼らをあざ笑うかのように殺人犯は犯行を繰り返す。共闘しても競争もする。どちらが早く犯人を確保するかけん制しながら助け合う、ボスと刑事の人間関係の距離感が絶妙だった。

全身を刺され重傷を負ったドンスは、組織を使って犯人探しを始める。連続殺人事件を追っていたテソクはドンス襲撃犯が連続殺人鬼と目星をつけ、ドンスに情報交換を持ち掛ける。

お互いに毛嫌いしているが、相手が持つネタやマンパワーは欲しい。取引を持ち掛けても信用しているわけではない。あらかじめ裏切りを予測してテソクとの会話を隠し録り・撮りするドンスは用心深い。直情径行型のテソクはむしろドンスがいなければ身動きがとれない。そのあたりドンスは狡猾、裏社会で文字通り命を張って生きてきた彼の用意周到さと、警察機構に守られてきた公務員にすぎないテソクとの “覚悟” の差が好対照で、ドンスに感情移入したくなる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて尻尾を現した犯人は組織と警察双方に追い詰められる。ドンスは当然裏社会の掟で犯人を裁こうとするがテソクは法に委ねようとする。ところが状況証拠ばかりでドンスに証言させなければ有罪にはできない。自分勝手な行動しかとれないテソクよりも、組織トップの責任とメンツを保とうとするドンス。どんな社会でも地位が人を作るとこの作品は教えてくれる。

監督  イ・ウォンテ
出演  マ・ドンソク/キム・ムヨル/ユ・スンモク/キム・ユンソン/キム・ソンギュ
ナンバー  114
オススメ度  ★★★


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