こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵

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トンネルは掘らない。外部の協力者はいない。看守を買収したりもしない。彼が思いついたのは今まで誰も考えなかった奇抜なアイデア。物語は、政治的思想的理由で逮捕投獄された男が刑務所内のドアを開錠していく過程を描く。看守が腰にぶら下げた鍵束を注意深く観察し、形状を頭に叩き込む。記憶をもとに図面を引き、作業場で拾った木片に細工し接着剤で貼り合わせる。硬い鉄製の鍵と比べて十分な強度はない。それでも、独房の格子戸は簡単に開いた。ところが外側のドアのロックは廊下側からしか鍵を差し込めない。監視が甘くなる深夜、さまざまな難題を知恵と工夫でクリアしていく主人公の姿は、脱獄に必要なのは肉体的なタフネスではなく精神的なタフネスであると教えてくれる。あきらめたら終わり、チャレンジしないのは負けなのだ。

アパルトヘイト活動で実刑を食らったティムは同志のスティーブンスと共にプレトリア刑務所に収監される。闘争継続を決意した彼らは早速脱獄を宣言、レオナールも仲間に加わる。

白人でありながら人種隔離政策に反対した人権派ばかりの棟、囚人間の暴力的な諍いはない。むしろ同じ志を持つ者同士、闘争方法に違いはあっても根っこのところでは通じ合っている。政治犯グループのボスは、ティムたちに自制を求め断られるが、足を引っ張ったりはしない。このあたり、裏切りや欺瞞といったエゴを丸出しにする行為は控え、いかにして看守の目を盗んで鍵を作り、ドアを開け、何度もリハーサルしていく様子が丁寧に再現される。緊張感あふれるシーンの連続は神経をすり減らすほどスリリング、ティムの感覚を体現させてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、刑務所内のすべてのドアの鍵を作ったティムは、機が熟したと判断。他の政治犯にも声をかけるが、結局3人だけで決行する。40年以上も前の南アフリカの刑務所にハイテク電子機器はなく、警備はマンパワーが頼り。驚くようなトリックも危機また危機のアクションもないが、それが逆に圧倒的なリアリティを醸し出していた。

監督  フランシス・アナン
出演  ダニエル・ラドクリフ/ダニエル・ウェバー/イアン・ハート/マーク・レナード・ウィンター
ナンバー  103
オススメ度  ★★★*


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