こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フェアウェル

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大好きなおばあちゃんには心安らかに最期を迎えてほしい。そのためには幸せ芝居を続けるべきなのか、真実を話し残りの時間を悔いなく過ごしてもらうべきなのか。物語は、余命わずかと診断された祖母のもとに集まった家族の愛を追う。米国育ちの孫娘は率直な態度を好み打ち明けようとする。ところが、一族のルーツ・中国では死期を本人に知らせるのは重大なマナー違反。固く口留めされた彼女は、秘密にするのが祖母のためとはどうしても思えない。個人を尊重する米国人と、個人は家族の一部ととらえる中国人。考え方は米国人なのに見た目は中国人、自らのアイデンティティに葛藤するヒロインを、オークワフィナが終始不機嫌なへの字で演じる。米国では中国人であることを気にしていないが、中国では強く意識せざるを得ないのだ。

北京に住む高齢の祖母・ナイナイの肺がんがステージ4に進み、NYのビリーと両親は里帰りする。だがナイナイには別の孫の結婚式出席ために彼女たちが戻ってきたと伝えていた。

時々体調を崩したりもするが、普段は精力的に動き回るナイナイ。とても重病を患っているようには見えない。ビリーは主治医からナイナイの病状を直接聞きだし、やっぱりナイナイに告知すべきと思うようになるが、一族はみな反対。すぐに喜怒哀楽が表情に出てしまうビリーは、ナイナイの前で必死にいい孫であろうとするが、嘘をついている自分が後ろめたい。このあたりの繊細な感情が中国一般家庭のさまざまな儀式や行事と共に再現され、いまだ孔孟の教えを是とする中国人の道徳習慣を浮き彫りにしていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ビリーと彼女の両親たちだけでなく叔父一家も日本に移住している。中国に残った祖父母の世代、中国を故郷と考える親世代、そしてもはや中国は異国でしかないビリーたちの世代。再開発ですっかり変わってしまった北京の街並み同様、人々の趣味嗜好も西洋流になりつつある。政治的には反米でも一般市民レベルでは祖国の捉え方は様々。そんな現代中国人の混沌がリアルに描かれていた。

監督  ルル・ワン
出演  オークワフィナ/ツィ・マー/ダイアナ・リン/チャオ・シュウチェン
ナンバー  168
オススメ度  ★★★


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