こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

461個のおべんとう

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息子が高校に通っている3年間、毎日弁当を作る。そう決意した父は調理器具と弁当箱とレシピ本を買い込み、早朝から包丁を握りフライパンを振り鍋を火にかける。物語は、弁当で結ばれたシングルファーザーとひとり息子の絆を描く。それなりに売れているミュージシャンの父は、新たな日課ができて日常に張りが生まれる。負担に思うどころか、作った弁当の写真をSNSにアップするなど楽しくてしようがない。写真を見たよとビジネスの席で会話が弾んだりもする。やがて、仕事仲間と飲み明かしても、地方都市へツアーに行っても、翌朝には1日も欠かさないという約束を守るためにキッチンに立つ。手がかかっていて愛情はこもっているけれど決して押しつけがましくはない、そんなスタンスの父のキャラが魅力的だった。

高校浪人した虹輝は年下のクラスメートから孤立していたが、一樹が作った弁当がきっかけで章雄やひろみと仲良くなる。虹輝は一樹に感謝しながらも、少しずつウザさを感じ始める。

一樹の作る卵焼きは絶品で、隠し味がいろいろあって日替わりで違う風味が味わえる。章雄とひろみはいつもおかずをつまんでは舌鼓を打っている。一樹のミュージシャン的生き方がちゃらんぽらんにしか見えない虹輝は、弁当作りが一時の気まぐれのように思えて素直に喜べない。一樹なりに精一杯愛してくれているのはわかっている、だからこそママと別れたのが許せない。理解してほしいのに理解されるはずがないと決めつけている。まだ、自分の気持ちをうまく整理できず言葉で伝えられない虹輝の、微妙な感情が繊細に再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

新しい恋人に遠回しにプロポーズするが、先のことが想像できないと断られる一樹。虹輝も、学園生活で失恋したり友人とケンカしたり家出したりと、一通りの青春を経験する。特に大きな波風は立たない3年間、それでもそうした平凡な日々が貴重な思い出になるとこの作品は教えてくれる。同工異曲の「今日も嫌がらせ弁当」よりは抑制が効いていて好感が持てた。

監督  兼重淳
出演  井ノ原快彦/道枝駿佑/森七菜/若林時英/工藤遥 /阿部純子/映美くらら/倍賞千恵子
ナンバー  191
オススメ度  ★★*


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