こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

脳天パラダイス

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「あきらめ」「不安」「後悔」「怒り」「ふがいなさ」「懐かしさ」etc. そこに住んでいた家族の感情がごちゃまぜになり「やけくそ」になるまで煮詰められたとき、幸福な高揚感に昇華される。物語は、立ち退きを迫られた豪邸で繰り広げられる一夜の饗宴を描く。最初は小さな集いのつもりだった。SNSで拡散した情報は次々と人を呼び、気が付くと見知らぬ他人ばかり。屋台まで出店して縁日のような賑わいになる。飲み食い踊り、恋人たちも出会ってすぐの男女もセックスにふける。大騒ぎが苦手な人も騒乱に巻き込まれている。羞恥心なんか捨てろ。理性に蓋をしろ。ただ衝動に身を任せ心を裸にして楽しんだ者勝ち。盆踊り風のセットでキレキレのダンスをキメるシーンが最高にクールだった。

自宅を明け渡す日、あかねはツイッターにパーティを開くとメッセージを投稿する。すると、出ていった母を始め、男性カップル、台湾人母子、太った叔母、自転車旅行中の青年などが次々とやってくる。

ゲイ夫婦の結婚式を祝ううちに訪問者は膨らみ始める。好き勝手に家に上がり込んだり庭を散策したりしているのに、父はおろおろするだけで無力。これはあかねの家族というより、豪邸自体の意思が妄想となり暴走したのだろう。祖父の生前はよく人が訪れ活気があった。豪邸の記憶はそこを去る家族に最後の思い出を作らせたかったのだ。三世代にわたる誕生から成長さらに葛藤を経てに死至る長い時間、裏切りや嘘、悲しみや苦労もあったけれど、おおむね喜びに満ちていた。この一家の歴史を凝縮した狂乱は、人と人の繋がりが人生を充実させると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も大きくなったコーヒー豆がギリシア彫刻と決闘したり、アイスピックが刺さった首から血を噴出させたり、借金取りが賭場を開いたりと、もはや意味を考えるのは無意味と思わせるシュールな映像が連発する。まさしく狂乱のイマジネーションが生み出したカオス、どんちゃん騒ぎはアホになり切って参加することに意義があるとこの作品は教えてくれる。

監督  山本政志
出演  南果歩/いとうせいこう/田本清嵐/小川未祐/玄理/村上淳/古田新太/柄本明
ナンバー  208
オススメ度  ★★★


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