こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

この世界に残されて

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家族を奪われた哀しみにゆえに感情を失った男は産婦人科医としての職責をまっとうしようとしている。両親を亡くした少女は怒りゆえに不満が胸に渦巻いている。物語は、第二次大戦終戦直後のハンガリー、心に深い傷を負ったふたりの交流を描く。男は少女に自分の子供を投影し、少女は男に父の面影を見る。ところが親密になるにつれふたりの関係を疑う者が現れる。元々あまりなかった自由がさらに窮屈になっていく。友人に忠告される。どこに出かけても見張られている気がする。深夜に隣人が逮捕されたまま戻ってこない。それでも収容所よりましと、息が詰まりそうな日常の中、ふたりは彼らだけの時間を愛おしむようになる。抑制の効いた演出は、彼らの “戦後” がベルリンの壁崩壊まで続いたことを暗示する。

医師のアルドは診察に来たクララの積極さに押され、彼女の保護者の許しを得た上で、勉強を手伝う名目で預かる。クララは気まぐれで大胆で、アルドの気持ちは日々乱されていく。

クララの両親も知識人だったのだろう、彼女はアルドのためにドイツ語雑誌を翻訳し、フランス語も話せるという。泊った夜にはアルドのベッドに入ってくるので、アルドはソファで寝なければならない。最初は戸惑っていたアルドだったが、距離感の取り方がわかるとクララとの生活を楽しめるようになる。だが共産党員による監視が強くなるとたちまちふたりによからぬ噂が立つ。このあたり、せっかくホロコーストを生き残り新たな一歩を踏み出した矢先なのに、また生きづらくなる予感が漂う。「ソ連の影響下に入った元枢軸国」という、著しく人権が制限された環境に置かれたユダヤ人の、運命に翻弄されながらも流れに身を任すしかない人生が切なくもリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クララの思いを知っているのに一線は越えようとはしないアルド。大切な肉親を戦争で失った者同士、相手の空白を愛で埋められても、決して恋には発展しないと理解しているからだ。アルドにとってクララの思い出が希望になったに違いない。

監督  バルナバーシュ・トート
出演  カーロイ・ハイデュク/アビゲール・セーケ/マリ・ナジ/カタリン・シムコー/バルナバーシュ・ホルカイ
ナンバー  227
オススメ度  ★★★


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