こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ディエゴ・マラドーナ 二つの顔

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 世界的なスポーツイベントで「神がかった奇跡」は2回しかない。1度目はモハメド・アリジョージ・フォアマンをKOしたとき。そして2度目がW杯メキシコ大会イングランド戦でのマラドーナの2ゴール。だが、25歳にして世界の頂点を極め若者を待っていたのは大衆の熱狂と究極の孤独。カリスマとなったのちは、ピッチでは結果を求められ、グラウンド以外ではマスコミに追い回され、サッカーでも私生活でも、彼が一番愛した自由が制限されていく。映画は、’20年秋に死去したマラドーナの膨大なアーカイブ映像から毀誉褒貶にさらされ続けた半生を追う。ペレと比較されるのを嫌がった少年時代、スペインリーグでの不遇、ナポリでの大成功と黒い交際。世間の手本になるような生き方に背を背けた奔放な人生は唯一無二の存在にふさわしい。 貧民街に生まれたディエゴはサッカーで頭角を現し15歳でプロ契約を結ぶ。その後バルセロナに移籍するが活躍できない。ナポリに迎えられると、万年下位チームを強豪チームに変えていく。 ’80年代のナポリはカモッラと呼ばれるマフィアが跋扈し、経済は低迷していた。北部チームのサポーターからは完全にバカにされていて、彼らが掲げる横断幕にはナポリ市民に対する侮蔑が堂々と明示されている。もちろん差別はいけないが、行儀がよくきれいごとしか言わなくなった21世紀のスポーツ界とは違った猥雑さが懐かしくもある。ナポリファンはゴールを決めれば崇め奉り、負ければぼろくそ。ホーム戦の雰囲気は、甲子園の阪神戦に似て熱狂的かつ偏執的だ。三冠王となって日本一に導いたバースを思いだした。 ◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆ W杯イタリア大会でアルゼンチンチームがイタリアを相手に戦った準決勝は、なんとナポリ開催という皮肉。地元を優勝させた英雄が祖国の敵に回るというナポリ市民の困惑はいかばかりか。さらにそれ以後のマラドーナに対する冷淡な仕打ち。その後のスキャンダルも含め、決して人生の手本になる人物ではない。だからこそ、マラドーナは尊敬される以上に愛されるのだ。 監督  アシフ・カパディア 出演  ディエゴ・マラドーナ ナンバー  21 オススメ度  ★★★ ↓公式サイト↓ http://maradona-movie.jp/