こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ある女優の不在

f:id:otello:20191116174353j:plain

狂言かいたずらに決まっている。でも、もし本当だったら寝覚めが悪い。メッセージを見てしまった女優は見知らぬ送り主を探して因習が残る山間部の村に向かう。物語は、芸能界へ進む夢が破れた少女からの遺書動画の真偽を確認するスター女優の心の彷徨を描く。少女が暮らす村では娘は父の決めた相手と結婚するのが当然、まだまだ女は男の所有物という概念が染みついている。そんな環境で、少女は女優になるための勉強を欠かさず、首都にある芸術大学に合格してしまった。だが両親は許してくれない。絶望した彼女は吊るしたロープに首をかける。村人は善人ばかり、だからこそ誤った価値観に支配されていると言いづらい雰囲気がある。自由のない社会で自由に目覚めてしまった人々の息苦しさがリアルに再現されていた。

映画監督・パナヒの運転でイラン北部のトルコ語圏の村にたどりついたジャファリは動画を撮ったマルズィエの消息を追う。マルズィエは3日前から行方不明になっていて、村人からはバカ娘と罵られていた。

クルマがすれ違えない未舗装の細い山道の先にある小さな村、ジャファリはマルズィエの実家を探し当てるが彼女の母からは実のある話は聞けない。村の喫茶店では男たちはおおむねジャファリに対する礼儀は示すものの、やはりどこかで “女” で “芸人” である彼女への敬意は失している。スマホで世界中とつながれる時代になっても男尊女卑的な考え方を変えようという気はない。さらに村はずれには革命前の大女優が隠棲しているという。おそらくテヘランでは大女優として扱われ、そう振る舞っているのだろう。しかしいまだ自分の人生を生きられない女たちがいる現実にジャファリは複雑な思いを隠せない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後現れたマルズィエに対しジャファリは怒り心頭になるが、必死で訴えるマルズィエの気持ちを理解する。パナヒも女たちが置かれている現状を知って心を痛めるが見知らぬ土地で何もできない。そう、パナヒにとってはこの作品を公開すること自体が体制への挑戦なのだ。

監督  ジャファル・パナヒ
出演  ベーナズ・ジャファリ/ジャファル・パナヒ/マルズィエ・レザイ
ナンバー  242
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://3faces.jp/