壁を走り屋根を飛び床を滑る。圧倒的な身体能力とワイヤーアクションで見せる殺陣は、これまでのシリーズをよりパワーアップさせ瞬きする間も与えない。物語は、個人的な復讐のために腕利きの殺し屋を集めたギャングのボスと、彼らを迎え撃つ剣豪の苦悩を描く。自分のせいで大勢の罪なき人々が巻き込まれていく。阻止するために殺し屋たちをひとりずつ倒していく。過去からの亡霊、逃げることは許されない。不殺の誓いを立てた主人公は斬れない刀を振り回しながら己の業をかみしめる。一対一、一対多数、さらに複数対大多数と、切れ目なく延々と擬闘を続ける映像は、満腹の胃にバターたっぷりのスイーツを詰め込まれているような濃厚さ。過剰な演出の波状攻撃は刺激に対して不感症になってしまう。携帯型大砲はどうやって正確な着弾点をはじき出したのだろう?
抜刀斎が自分の刀で斬り殺してしまった妻・巴の弟・縁が上海から日本に戻ってくる。縁は財力とネットワークで抜刀斎に恨みを持つ剣客を集め、東京のあちこちで無差別テロを起こす。
西南戦争も終わり平和を取り戻した日本、廃刀令が出されたのちも帯刀する抜刀斎。日本にも拳銃や機関銃など西洋の最新武器が輸入されているが、抜刀斎が見向きもしないのはプライドゆえか。もはや侍は時代遅れ、それでもかつて数えきれない人の命を奪った記憶は消えない。そして、頬の十字傷に塩を擦り込むかのように縁は少しずつ抜刀斎を追い込んでいく。そして亡き妻との間に芽生えた愛とそれ以上の複雑な感情。だが、そういった登場人物の背景は付け足しにすぎず、映画はひたすら敵味方入り乱れての斬り合いに終始する。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
そして抜刀斎は縁との最終決戦に臨む。実力は互角、どちらも相手の攻撃に一切ひるまず反撃する。ストーリー性やリアリティを捨てて、あくまで “誰も見たことのないチャンバラ” にこだわるサービス精神は素晴らしい。だが、まるで「マトリックス」におけるネオ対スミスの終わりなきバトルを見ているようで溜息しか出なかった。
監督 大友啓史
出演 佐藤健/武井咲/新田真剣佑/青木崇高/蒼井優/伊勢谷友介/土屋太鳳/江口洋介
ナンバー 73
オススメ度 ★★*
↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin2020/about/