こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スプリー

f:id:otello:20210427085425j:plain

ライブ配信でバズりたい! その一心で暴走し、次々と殺人を重ねていく。だがフォロワー数は一桁、歯止めが効かなくなった男はさらに過剰な演出を加えていく。物語は、動画配信でインフルエンサーになろうとする若者の歪んだ心を描く。視聴者が興味を抱くような面白いアイデアは浮かばず、自分のクルマに取り付けたカメラでライドシェアの客とのやり取りを発信するだけ。退屈なのはわかっている、だからこそ客たちがもがき苦しんで死んでいくところを見せれば、刺激を求めている人々に受けるかもしれないと考える。なのに、過激にすればするほどフェイクとディスられる皮肉。殺すことに快感を覚える旧来の変質者とは違う、ネット社会が生んだ新しいタイプのサイコパス。社会に対する憎しみではない、自己承認欲求が強すぎるゆえの大量殺人はあくまでゲーム感覚だ。

少年時代から動画をSNSに公開しているカートは、どうすれば人気者になれるか試行錯誤の日々。かつてシッターをした少年から見下されたことから、凶暴な本性をむき出しにする。

退屈な人生は仮の姿、すぐにネット界のスターになれると思い込んでいるカート。なぜ視聴者が食いつかないかを冷静に分析せず、人気コメディアンにしつこく絡んだりする。車内を派手に装飾してカメラ映えを意識しているのに、視聴者の反応は期待とは反対のモノばかり。己の異常さを売り物に法や道徳・倫理まで破って覚悟のうえでやっているのに炎上すらしない。なにをやってもネットの住人から相手にされない独りよがりのむなしさと、それでも根拠なく自分の可能性を信じるカートの表面的な明るさが不気味だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

視聴率のためなら何でもありというTVマンが主人公の映画はあったが、それはプロの世界の話。今やだれもがコンテンツ発信者になれる時代、こういう異常者を放置しておけばやがて当局が介入し、さまざまな規制を設けてくる。表現の自由を守るためにもプラットフォーム提供者は何らかの基準を設けるべきという問題を投げかける作品だった。

監督  ユージーン・コトリャレンコ
出演  ジョー・キーリー/サシーア・ザメイタ/ミーシャ・バートン/ジョシュ・オバージェ/デビッド・アークエット
ナンバー  74
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://synca.jp/spree/