後ろ手に縛られたままでも耳にかみつき、振り下ろされた刀をかいくぐって蹴りを見舞う。さらに口にくわえた脇差で腹を刺し、いましめを解いた後は20数人を一気にぶった斬る。噴出した血で壁も床も真っ赤に染まり、次々と息絶えていく侍たちを残して男は去っていく。幕末の京都、物語は長州藩の刺客となった剣豪の哀しい過去を描く。剣の腕前は超絶、人前では一切隙を見せない。無口だが志は高く、大義のためにはあらゆる犠牲をいとわない。そんな男がただひとり心を開いた女の素性はベールに包まれている。人殺しを生業にしている男と寄る辺ない女、お互いの孤独に通じるところがあるふたりは運命のように距離を縮める。「オロ」とも言わず、低姿勢回転もしない主人公の設定は、シリーズ中最高にクールだった。
桂小五郎の命令で佐幕派暗殺を繰り返してきた緋村は、浪人に絡まれていた巴を助けるが、刺客を斬殺するところを目撃されてしまう。巴を介抱するうちに緋村は彼女のやさしさに心をほぐされていく。
己に似た部分を感じあったふたりは、同じ部屋で寝泊まりする仲になる。一方で京都では新選組が勢力を伸ばし、池田屋事件では沖田総司と剣をまみえる緋村。佐幕派に狙われるようになった緋村を温存するために、桂は彼を巴とともに農村に隠棲させ、ふたりはつかの間の平穏な暮らしを送る。殺し合いとは縁のない、晴耕雨読の日々。緋村は巴のやさしさに触れ、幸せを見出していく。緋村以上に寡黙な巴の、憎んでいたはずの男を愛し始めた葛藤がリアルに再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
内通者によって隠れ家がばれ、巴は拉致される。救出に向かった先で待っているのは幕府の忍者部隊。ただこのあたりからアクションが飛び道具や爆発に頼るようになり、緋村は抜群の身体能力を見せるよりも、いくらダメージを負っても絶対に死なない頑強な肉体の持ち主であることばかりが強調される。頬の十字傷の謎は解けたが、緋村がどんな修行をして剣術を身に着けたかは不明のまま。さらなる過去を知りたくなった。
監督 大友啓史
出演 佐藤健/有村架純/高橋一生/村上虹郎/安藤政信/北村一輝/江口洋介
ナンバー 100
オススメ度 ★★★