両親と別れて逃げるしかなかった。生き残るには走り続けるしかなかった。映画は、内戦のスーダンから出国し五輪選手として活躍した男の波乱万丈の半生を追う。のどかな村から強制的に追い出された。糧を得るためには何でもやった。身柄を拘束され奴隷のような扱いも受けたこともあった。それでもあきらめず、命の危険を顧みないで勇気を振り絞る。そして手に入れた自由。もう誰にも束縛されることはない。自分の意志で走ることを選んだ彼はみるみる頭角を現していく。引き締まった長身に長い手足、受け継がれた遺伝的形質は米国流の合理手的な指導で長距離走者として開花していく。「戦争のルール」を無視した内戦という殺戮の荒野で想像を絶する苦難をなめてきた主人公が、平和の祭典で見せる勇姿は美しい。
スーダン南部の村で生まれたグオルは内戦で故郷を追われ難民キャンプに避難、米国に難民として受け入れられる。その後ニューハンプシャーの高校に進学、陸上部コーチに声を掛けられる。
大学進学後も実績を残したグオルは初マラソンで五輪参加標準記録を破るが、スーダン代表としての参加は断る。だが、オリンピック委員会がない当時の南スーダンからは出場できない。それが世界中のメディアで取り上げられると、IOCは特例で彼のロンドン五輪エントリーを認める。国の代表ではない、独立参加選手。支援者と2人だけで選手村に入る彼の姿はさみしげではあるが誇らしげでもある。結果は47位と振るわなかったが、新生南スーダンの象徴として完走した彼には金メダル以上の価値があったに違いない。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
一度は帰国して両親と再会、さらに南スーダンに陸上競技連盟を作るなど人生の絶頂期を迎える。ところが調子を崩して勝てなくなったり、南スーダンで内戦が勃発したりと難題が山積する。マラソン選手としては二流、かといって誇れるスキルも人脈もない。かつてのヒーローにも生活苦はのしかかり、ウーバー運転手として糊口をしのぐグオル。自由も人権もタダではない、そんな現実が痛ましかった。
監督 ビル・ギャラガー
出演 グオル・マリアル/ラスティ・コフリン/コーリー・イーメルス/ブラッド・プア
ナンバー 65
オススメ度 ★★★*