こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

明日に向かって笑え!

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全財産をだまし取られた上に妻まで死なせてしまった。すっかり生きる意欲をなくし、自分を憐れむようになった。そんな男を、息子の一言が奮い立たせる。物語は、人里離れた藪の中に設えられた地下金庫に隠した大量の現金を盗み出そうとする老若男女グループの奮闘を描く。きっかけは偶然耳にした情報だった。綿密な計画を立て、スパイを送り込み、着実に実行していくはずだった。だが彼らはプロ集団ではない、時として想定外のトラブルに見舞われ頓挫しそうになる。そのたびに弱気になるリーダー格の男に、仲間たちは “正義の鉄槌” を下さなければならない理由を説き、彼の勇気を導き出そうとする。アイデアも展開も1970年代の映画のように古臭く、あっと驚くようなトリックもない。それでも味わい深いキャラクターが映像に奥行きをもたらしていた。

新規事業を始めるフェルミンは出資者から集めた開業資金を銀行に預けるが、翌日、口座が凍結される。弁護士のマンシーがそのカネを横取りしたと知ったフェルミンは出資者を集め、奪還作戦を練る。

マンシーの金庫を見つけるが、異変があるとすぐにマンシーの携帯電話に警報が届く。セキュリティシステムの電源供給と警報の発信パターンを解読した彼らは、偽アラームを頻発させ、マンシーが電源を切るように仕向けていく。21世紀初頭の話だが、ガラケー以外にハイテク機器とは縁がない田舎町、まじめに正直に生きてきたことだけが取り柄の犯行グループメンバーが自らの体を動かして作戦を実行していく姿は、労働者を貴ぶアルゼンチンらしい気風に満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

嵐の夜、変電所を爆破して地域一帯を停電させる当初の予定に沿って、金庫破りは決行される。しかし所詮は素人、あちこちで齟齬が出る。用心深いマンシーは些細な異変に気づきクルマを飛ばして金庫までやってくる。そのあたりも、無用に緊張感を高めるような演出には走らず、あくまで肩の力を抜いた軽さ。最後まで非暴力を貫く彼らのスマートさには、爽快さよりも共感を覚えた。

監督  セバスティアン・ボレンステイン
出演  リカルド・ダリン/ルイス・ブランドーニ/ チノ・ダリン/アンドレス・パラ/ベロニカ・ジナス
ナンバー  143
オススメ度  ★★*


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