大いなる期待を胸に新生活を始めたはずなのに、自己肯定感を得られず孤独を味わうばかり。若者はそんな自分自身を壊したいと願う。物語は、大学生活になじめず悶々としている新入生が、サークルで出会った女子大生と軽犯罪を繰り返す男に導かれ、未知の自分を発見していく過程を追う。女子大生は異性と一緒に行動し自由に談義する楽しさを教えてくれた。男は世界の裏側と普通の人々の濁った欲望を見せてくれた。それらは、人間ならだれもが持つ、正と負の感情の象徴。やがて主人公は、女子大生には恋心を、男にはリスペクトを抱いていくが、彼らの思想は正反対。2つの価値観の中での葛藤は、彼が何者であるかを明らかにしていく。将来への希望を抱けない時代の大学生、それでも生きていかなければならない苦悩がリアルに再現されていた。
かくれんぼサークルに入った私は4年女子の先輩と親しくなる。一方で、学内で放火騒ぎを繰り返す黒服にも仲間と認められ、彼の隠れ家に案内される。
黒服はプログラミングの天才で、あらゆるものをハックしては情報やシステムだけでなく物理的な窃盗を繰り返している。黒服は映画を通じて同志を集め、さまざまないたずらを仕掛けては世間の注目を浴びることに快感を覚えている。さらに物質的精神的に満たされない若者を洗脳し始める。黒服自身は裕福で、特に左翼的でもないが腐りきった社会を浄化しようとしている。大規模テロを起こそうという人物が鋼鉄の信念を持った革命家などではなく、単なる愉快犯の延長に過ぎない。そのあたりにネットワーク社会における「人生」の軽さが凝縮されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
私は黒服と距離を感じると同時に、先輩とはデートを重ねる。出版社から内定をもらった先輩は、人の心に残る本を作る夢を語る。誰かの記憶に残るようなことをしたいと望む先輩と黒服、そこに愛があるのか否か、明白な答えを私は選ぶ。エッジのきいた映像とは裏腹に描かれている精神は陳腐な言葉とメタファーで彩られ、空疎さだけがが浮き彫りにされていた。
監督 二宮健
出演 永瀬廉/池田エライザ/篠原悠伸/安藤彰則/山口まゆ/ 渡辺真起子/柄本佑
ナンバー 18
オススメ度 ★★*