こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

声もなく

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愛することを知らずに育った男と、愛されていないと思い込んでしまった少女。犯罪を通して出会った2人は、いつしかお互いに欠けていたものを補うように信頼関係を築いていく。ストックホルム症候群などではない、奇妙にこじれているけれど心地よい絆。物語は、誘拐された少女を一時的に預かった男とその妹が家族のような一体感を抱いていく過程を描く。聞こえるけれど話せない男は、視線だけで感情を表現する。高い知能と教育を授かった少女は、機転が利く上に相手の気持ちを察する術にもたけている。そして、育児放棄された妹は、髪は伸び放題のぼさぼさ頭だが素直な性格。隔絶された世界で生きてきた兄妹に対し慈母のようにふるまう少女も、実は両親のもとでは気づまりな日常を強いられてきたのだろう。そんな彼らが心を通わせるシーンは、誰かがそばにいてくれる安心感に満ちていた。

卵売りの傍らヤクザが持ち込む死体処理の闇商売もしている聾者の男は、11歳のチョヒの世話を押し付けられる。チョヒは男の妹・ムンジュをさっそく手なずけ、脱出の機会をうかがう。

汚部屋をきれいに掃除し服を洗濯してきれいにたたみ生活を整えるチョヒ。ムンジュは文明的な環境を維持しようとするチョヒにすっかり懐き、仲のいい姉妹のようになっている。その後、身代金の受け渡しに失敗し、両親に見捨てられたと勘違いしたチョヒはかえって兄妹に親近感を覚えてしまう。2日3日と経つうちにかつての暮らしでは感じられなかった、自分が頼られているという保護本能を刺激されたのだろう。生き生きとしたチョヒの表情は、彼女がいかに大きな承認欲求を持っていたかを象徴する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

事態は暗転し、人身売買組織に売り飛ばされたチョヒ。だが、男は命がけでチョヒを取り戻す。チョヒこそは己の生きる希望、負け犬の目をしていた男の瞳は自己犠牲を学んで輝きを取り戻す。その後も警官をめぐって奇妙なやり取りやコミカルな要素もちりばめられ、切なさの中にも適度な笑いをまぶした心地よい作品だった。

監督     ホン・ウィジョン
出演     ユ・アイン/ユ・ジェミョン/ムン・スンア/イ・ガウン/イム・ガンソン/チョ・ハソク
ナンバー     17
オススメ度     ★★★★


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