こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鹿の王 ユナと約束の旅

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逆境にも屈しない屈強な肉体と強靭な精神、そして体内に流れる特別な血は疫病すらさらなるパワーに変換する能力を持つ。物語は、病原体を持つ犬の群れに襲われた坑道で生き残った元戦士と小さな女の子の数奇な運命を追う。その血が抗体として有効であると考えた医師は彼の後を追う。疫病を交渉の切り札として温存しておきたい小国は彼の暗殺を謀る。陰謀と裏切りの渦巻く政治の世界に、女の子のために人生を捧げようとする男は否が応でも巻き込まれていく。己はなんのために生きるのか。命を懸けて守るべきものがあるのか。登場人物それぞれが自らの正義のために行動する。大国と小国の内部でもさまざまな勢力がせめぎ合う過程は、善悪という分かりやすい価値観が崩壊してしまった21世紀の混迷を象徴する。

疫病から逃れたヴァンはユナを連れて逃亡、小さな村に落ちつく。疫病の治療法を研究する医師・ホッサルは暗殺者・サエとともにヴァンを追跡、ユナにも特別な血が流れていると気付く。

一方、支配を強めようとする大国と独立を願う小国の思惑が複雑に絡み合い、ヴァンはそのカギを握る人物として双方から身柄を狙われる。だが、かつて高名な戦士だったヴァンは超人的な身体能力と卓越した知力判断力で襲撃してくる者たちを打ち倒す。戦闘員・民間人を問わずみな馬に乗っているのに、ただひとりヴァンだけは立派な角が生えた大鹿にまたがっている。凛々しくも勇壮、弱音も本音も吐かず迷わずに自分が信じた道を突き進む姿に、久しぶりに正統派ヒーローを見た気がした。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、全体的に絵作りが一昔前のクオリティで、ディテールまで細密に描きこまれていないのが物足りない。冒頭の犬の群れによる坑道襲撃やヴァンとユナが旅をする森、鹿放牧場ののどかな風景など、もっと色彩や躍動感に凝るなどアニメならではの表現があったはず。登場する武具や注射器といった小道具の造形、背景となる建物や空に浮かぶ気球の壮麗さなどにも、イマジネーションを膨らませてほしかった。

監督     安藤雅司/宮地昌幸
出演     堤真一/竹内涼真/杏/木村日翠
ナンバー     27
オススメ度     ★★


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