根拠などどこにもない。だが娘たちは成功すると確信している。そのために練ったプランは完璧だから。物語は、女子テニス世界チャンピオン姉妹を育てた男のユニークなキャラクターと教育方針を描く。高額な優勝賞金を受け取る選手をTVで見たのがきっかけだった。自己流でコーチ術を学び基礎を叩き込んだ。娘たちが専門の指導が必要な年齢に達すると、無料で面倒を見てくれるコーチを探し、強引に売り込みに行く。時に無礼で傲慢、平気で交渉相手をだましても駆け引きだと平然としている。ビジネスマンと虚勢を張り舌先三寸で丸め込む。一方で、娘たちには謙虚であれと諭す。気分次第で言うことがころころ変わる信頼できない男なのに、なぜか不可能と思える目標を次々と実現していく。これぞ “神に選ばれし者” のなせる業なのだろうか。
ビーナスとセリーナをプロ選手にする計画を立てたリチャードは、日々彼女たちに厳しいトレーニングを課す。治安の悪い公園ではチンピラに絡まれ、近所からは児童虐待を疑われる。
妻の連れ子3人に対しても個性を伸ばそうと分け隔てなく接するリチャード。一方で、ビーナスとセリーナに対する熱い愛情は度を越えたものに見える。なのに、彼女たちはハードな練習を苦にせずむしろ世界一になるための努力と思っている。まだ小学生の子供、父は絶対的に正しいと洗脳されているのだ。天才の才能を最大限に伸ばすには特殊な環境が必要なのはわかる。ただ、成功者になるという夢を娘に押し付けるリチャードのエゴは、愛情を越えた狂気にしか見えなかった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
さらにフロリダの養成所に姉妹だけでなく家族ごと移住し、そこでもプロコーチよりも自らの考えを押し通すリチャード。今度は、ビーナスの心を世間の雑事から守るために試合に出さないと言い出す。そんな、絶対に信念を曲げずに方針を貫く奇人変人をウィル・スミスが焦点のぼやけたようなまなざしで演じ切る。ビーナス&セリーナ姉妹のコートでのマナーの悪さの一因はやっぱりこの父にあると納得した。
監督 レイナルド・マーカス・グリーン
出演 ウィル・スミス/アーンジャニュー・エリス/サナイヤ・シドニー/デミ・シングルトン/トニー・ゴールドウィン/ジョン・バーンサル
ナンバー 37
オススメ度 ★★★★