こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

白い牛のバラッド

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やっと夫の死を受け入れられた。聴覚障害のある娘と2人で生きていく覚悟もできた。忘れたことはないけれど、これが現実と折り合いをつけてきた。そんな時届いたまったく意外な知らせ。物語は、刑死した夫が実は冤罪だったと告げられた女が司法に謝罪を求めて戦う姿を描く。過ちは認めても裁判所の対応はけんもほろろ、マスコミには黙殺され、世間に周知するには自腹で意見広告を出すしかない。さらに慰謝料の横取りを狙う義父と義弟。厳格なイスラム法の下で自由と人権を制限され窮屈に暮らす女たちのやり場のない怒りと不満がリアルに再現されていた。見知らぬ男を部屋に招きいれただけで家主から立ち退きを求められるシーンが、宗教が法に優先する強権国家の理不尽さや女性の地位の低さを象徴していた。

夫の容疑は晴れたものの納得できないミナは抗議行動を起こすが誰にも相手にされない。ある日、夫の友人だったというレザがミナの元を訪れ、借金を返したいと言う。

さらにミナ母娘に広くて快適な住居を提供するだけでなく、レザはタイミングよく現れ、彼女たちの面倒を見て便宜を図る。沈んでいたミナの心も少しずつ明るさを取り戻し、娘もレザに懐いていく。レザこそが夫に死刑を求めた張本人なのだがミナは知らない。許されないのはわかっていても罪滅ぼしをしたい。ミナに自分を罰してもらいたい。そう願うレザの葛藤が、深く刻まれた眉間のしわに現れる。だが、あれもこれも起きたことはすべて神の意思、人間はただ運命として受け入れろという、イランという国の宗教・習慣は、やっぱり前近代的だと思う。ミナの夫が死刑になったことを周囲が知らないところだけは、プライバシーがよく守られていると感じたが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人を誤って死なせておいて、きちんと責任を取れない。さらに自分が緊急事態に陥ったとき、ミナは親身になって助けてくれた。なのに自ら真実を告げる勇気がなかなか湧いてこない。あのミルクを飲んだのは、ミナの妄想ではなくて、レザの願望だったのだろう。。。

監督     マリヤム・モガッダム/ベタシュ・サナイハ
出演     マリヤム・モガッダム/アリレザ・サニファル/プーリア・ラヒミサム
ナンバー     43
オススメ度     ★★★*


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