愛はもう冷めた。でも未練はまだ残っている。かすかにつながっている糸を完全に切ってしまいたくはない。物語は、離婚を決意したものの飼い猫の所有権をめぐってもめる夫婦が、お互いの浮気相手を巻き込んで起こした騒動を描く。夫は付き合っている同僚から結婚を迫られている。妻は仕事相手との情事を楽しんでいる。ところが、外で仕事をする夫は何事もなかったように帰宅し、家で仕事をする妻も秘密を隠したまま普段の顔を崩さない。思い切って環境を変えて過去をリセットしようとする女たちと、ずるずるとぬるま湯状態を引きずり現状維持したい男たち。常に前に進もうとする女たちと優柔不断な男たちの人生に対する考え方の違いが対照的で興味深かった。猫がいなくなって問題が先送りされたときの、夫のほっとした表情が印象的だった。
広重の浮気が原因で離婚に同意した亜子だったが、彼女もまた松山と付き合っている。広重は恋人の真美子から結婚を迫られ煮え切らない態度を取っていたが、ある日飼い猫のカンタが姿を消す。
別に離婚を急いでいるわけでもなく、広重と亜子にとってカンタ探しが最優先される。カンタはふたりにとって結婚を決意させた大切な猫。今ではふたりともわが子のように愛情を注いでいる。以前から広重の振舞いにイラついていた真美子はチャンスとばかりに押していくが、逆に広重はますますあやふやなになる。さらに真美子は亜子と松山がいちゃついている現場を狙うなど、一気呵成に攻め込む。このあたり、仕事面でも有能なリベラル思想の持ち主ながら、一方で結婚や家庭にはあこがれている真美子の複雑なキャラクターが新鮮で、彼女に振り回される広重の狼狽ぶりがリアルに再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
カンタは意外なところで元気に暮らしていたが、その事情を松山と広重が知ったことから急展開。4人がそろった席でそれぞれが思いのたけをぶつけ合うが、ここでも主役は女たち。亜子が真美子に放つ “泥棒猫の上に猫泥棒!” というセリフが大いに笑えた。