こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オートクチュール

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福祉に頼り切ってまともに働く気はない。どうせ私なんかと自らを卑下して窃盗に手を染めている。パリ郊外の団地ではそんな移民たちが希望を持てずに暮らしている。物語は、高級ブランドのベテランお針子と移民街に住む娘の交流を描く。ドレスの手縫いで数十年生きてきた女は引退間近なのに家族はいない。移民の娘の指先に才能を感じた彼女は、娘を後継者として育成しようとする。だが、年長者の助言に耳を貸さず自由に生きたいと言う娘。他人の言に耳を傾けず自己主張が強い人々がケンカ腰に交わす会話は刺々しく、決して相手を忖度しない。思ったことを遠回しな言葉にする日本と違って、ストレートに気持ちや感情を伝える方がフランスでは信用されるのだろうか。

奪われたバッグを返しに来たジャドをアトリエに誘ったエステルは縫製を基礎から教える。元々指先が器用なジャドはすぐに覚えるが、その出自ゆえさまざまな軋轢を生む。

まともな教育は受けていないジャドは素行が悪く、遅刻したり休日出勤を拒んだりする。23歳という設定だが、まだ反抗期の少女のようなメンタリティ。貧困の中で生まれ育ち、真の愛や友情に恵まれずに育つとこうなってしまうのか。エステルはジャドの中に眠る善良な部分を信じ、彼女が目を覚ますのを待つ。ジャドの立場からすれば、自分の生き方にあれこれ口を出されるのは鬱陶しいだけだろう。ところが、介護している実の母親にはない、エステルの誠実な生き方に少しずつ影響を受けていく。お針の給料はそれほど恵まれていない。仕事にのめりこみすぎて娘との関係も疎遠になったまま年を取る。それでも “それが私の人生” と胸を張るエステルに、個人主義を貫くフランス人の誇りが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

最後の仕事になるコレクションに向けてエステルは残業続きの日々を送る。彼女の背中から学んだジャドは生活態度を改めていく。人種や価値観、世代は違っても、真正面からぶつかり合って、お互いを理解すれば信頼を築けると2人の笑顔は訴えていた。

監督     シルビー・オハヨン
出演     ナタリー・バイ/リナ・クードリ/パスカル・アルビロ/クロード・ペロン
ナンバー     60
オススメ度     ★★★


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