こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベルファスト

f:id:otello:20220330134458j:plain

通りに面したアパートで平和に暮らす一家、まだまだ両親に甘えたい年頃の次男は、次第に自分の世界を持ち始めている。物語は、近隣同士がみな顔見知りの街で、突然宗教対立という暴力が吹き荒れた日々を描く。父は大都会に出稼ぎに行きたまにしか帰ってこない。母は家庭を守りながらも様々な問題を抱えて苦労している。年金生活者の祖父母は話し相手になってくれる。ところが、暴徒の襲撃を機に通りはバリ封され居住者も検問所でチェックされる。まるで戒厳令下、それでも主人公の少年の日常は変わらず、学校に通い年長の少女とつるんでいたりするが、大人たちの緊張が徐々に子供たちを敏感にさせていく。両親が顔を合わせるたびに険悪な雰囲気になるのがわかる、そんな繊細な少年の心理をジュード・ヒルがリアルに再現していた。

カトリックが多く住む地区をプロテスタントが破壊、街に戦車や正規軍が動員され治安維持にあたる。巻き込まれそうになった9歳の小学生・バディも、街や家庭に漂う不穏な空気を感じ取る。

両親には大きな借金があるらしい。そのことで父と母がもめているのも目撃した。さらに父がプロテスタント暴徒のリーダーと悶着を起こしているところにも遭遇した。だが、自分にできることなどないからあえてかかわろうとはせず、祖父に恋愛相談を持ち掛けたりしている。理解できるのは、父は街を出たがっているが母は故郷にしがみついているということだけ。見知らぬ世界に飛び出す勇気と、心地よい人間関係を失うことに対する恐れ。精緻に設計されたモノクロームの映像が、登場人物の内面を静かにあぶりだす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

小康状態の間、バディは家族と映画を見に行ったり好きな子と過ごしたりと幸せに暮らす。その間、祖父母の間で交わされる会話がウイットに富む。恋に落ちた瞬間の思い出を語る彼らの “現在進行形の愛” がまぶしかった。また、物を投げるときに抜群のコントロールを見せる父の腕が、「真昼の決闘」で見事に生かされるシーンは思わず快哉を叫びそうになった。

監督     ケネス・ブラナー
出演     カトリーナ・バルフ/ジュディ・デンチ/ジェイミー・ドーナン/キアラン・ハインズ/コリン・モーガン/ジュード・ヒル
ナンバー     59
オススメ度     ★★★★


↓公式サイト↓
https://belfast-movie.com/