失業中なのに真面目に職探しはせず、実家の援助に頼っている。一人娘は児童相談所預かりで、なかなか会わせてもらえない。元妻は自分以上にだらしなく責任感ゼロ。物語は、何をやってもうまくいかず、やらなくてもずるずると沈んでいくだけの男の日常を描く。もちろんこのままでいいとは思っていない。娘との同居を真剣に考えてはいる。だが何事にも一生懸命になれず、結果は好ましくないものばかり。さらに己だけではなく娘の不幸までも運命のせいにしてしまう。そんな甘ったれた心根の持ち主である主人公のふがいなさがダラダラと綴られる映像には、ただただ不快感が募っていく。この、「面白くないものに支配されている」感覚こそが、主人公が世間に対して抱いている思い。なにもかも嫌になって叫び出す気持ちがリアルに再現されていた。
虐待の疑いをかけられた娘・ひいろを取り返したいヒロミツは、実母を間に立ててひいろと暮らし始める。愛情に飢えているひいろは少しずつ心を閉ざし始めヒロミツを苛立たせる。
ヒロミツはカネに困っているとはいえ、借金取りに追われたり犯罪に手を染めたりしているわけではない。働き始めた運送会社でも問題を起こすことなく過ごしているが、ひいろの面倒まではきちんと見切れていない。自分が生きるのに精いっぱいで子育ての余裕がないのだ。それでもひいろと離れているのは耐えがたい。自分が変わらなければならないとはわかっているのに、変わる勇気がない。一方で、勢いで抱いた女に妊娠を告げられたりする。負のスパイラルから脱出できない人生、それでも彼の決心ひとつで状況を打開できるのに、その一歩目が踏み出せない。ヒロミツの弱さは、貧困層から抜け出せない人々の共通した意識だろう。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
失業、虐待、育児放棄etc. ここには現代日本の格差社会の底辺に属する人々の生活パターンとその思考回路が凝縮されている。未来に夢を持てなくなった責任は社会にあるが、大本の原因は彼らに勤勉さが欠けていることであるとこの作品は見抜いている。
監督 倉本朋幸
出演 郭智博/古田結凪/美保純
ナンバー 52
オススメ度 ★★★